電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

「専業主婦は都市部のぜいたく品」

前回書きそびれた話を少々、というか前々からの雑感をいろいろ。
このブログでは、以前も「女性の社会進出は悪い左翼フェミニズムが原因」という説への疑問を述べた。
http://d.hatena.ne.jp/gaikichi/20160404
http://d.hatena.ne.jp/gaikichi/20170522
今年、『都道府県格差』(isbn:4532263549)という本の仕事を手伝った、まあ基本的には統計データ本だ。で、全国の女性の就労率について調べたところ、興味深い結果が出ている。

平成27年国勢調査」(総務省統計局)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001088598&cycleCode=0&requestSender=search
2-1 労働力状態(8区分),配偶関係(4区分),年齢(5歳階級),男女別15歳以上人口(総数,日本人及び雇用者)−全国

こちらのデータによると、現在の日本の就労人口は5891万9036人、女性は2584万1333人。Excelの機能で割合を計算すると43.86%でじつに半数近い。
上記のデータベースにある表は、都道府県だけでなく全国の1700を超える市町村も全部を表示しているので非常に見るのが面倒だが、とりあえず47都道府県の割合を見るとどうなるか? 女性の社会進出が近現代の現象と思っている人間ならば、都市部ほど女性の就労率が高いと思うだろう。ところが、計算結果は以下のような順になる。

- 全国 43.86%
1 高知県 47.56%
2 宮崎県 46.97%
3 熊本県 46.81%
4 鹿児島県 46.45%
5 佐賀県 46.41%
6 鳥取県 46.34%
7 青森県 45.78%
8 長崎県 45.77%
9 福岡県 45.74%
10 徳島県 45.71%

(※端数は四捨五入)
なお、最下位は神奈川県で41.90%、東京都は43.82%で全国36位だった。
内閣府男女共同参画局が発表している「都道府県別 女性の就業率(25〜44歳)の推移」は、これと異なる結果だが、地方の県が上位、都市部は下位という点は共通する。
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h29/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-00-04.html
なんのこっちゃ、都市部より地方の方が女性が社会進出してるじゃねえか。
地方の県(それも四国とか九州とかいっけん保守的な価値観の地域)ほど女性の就労率が高い理由のひとつは、県民所得の低さのためだ。
東京都、大阪府、愛知県などの3大都市圏は大企業が集中しているので高給取りが多い、そういう地域では「正社員の夫+専業主婦」という世帯が成り立つ。ところが、地方では嫁はんも働かなければやっていけないのだ。
逆にいえば明らかに「専業主婦=都市化の産物」なのである。
果たして、現実に九州や四国や北陸地方のスーパーや工場で働いているおばちゃんの多数は、上野千鶴子を愛読しているだろうか? 彼女らにとって左翼フェミニズムが説く自己実現なんざ何ら関係なく、単に目先の生活のため働いているだけではないのか。

ワンサイドゲームはつまらない

日本スゴイ」と異世界技術チートは、どこか似ている - シロクマの屑籠
http://b.hatena.ne.jp/entry/p-shirokuma.hatenadiary.com/entry/20171123/1511428961

毎度毎度の後出しジャンケンで恐縮だが、自分も以前に、このエントリときわめてよく似たことを考えててた。
アニメ版『異世界食堂』の放送中「なんか面白くないなあ」と感じていた。「よくある中世ヨーロッパ風異世界」+「現代の洋食屋」という組み合わせのギャップ以上のひねりが何も感じられない。要するにこれはワンサイドゲームなのだ。
「現代のすぐれた料理を中世風の異世界に持ってけば、きっと騎士もドラゴンもみんな喜んでうまいうまいと言うぞ」という一方的な「現代=優秀/中世風=劣った前近代」というあまりにも単純すぎる世界観認識で、現代人のほうが中世風世界観からカルチャーギャップを学ぶ要素が何もないのである。
この点、たとえば1970年代末〜80年代初頭に描かれた諸星大二郎のSF漫画とか、花輪和一の中世もの漫画だと、現代人の方が、いっけん見下していた古代文明や中世社会やら未開部族からあっと驚く意外な世界観を示されるとかいう展開がよくあった。つまり、我々が自明の物と思ってる「近代社会」を相対化する視点があった。『異世界食堂』にはそういうものがまったくなく、「自分らの生きてる現代日本=サイコー」という感じなのだ。
アニメ版『ゲート』を見たときも同じような印象があった。第2期の第1話では、「文明が中世レベルの帝国人に現代兵器を見せたらビビって講和に応じる」という描写があったが、それってあまりにも一方的な現代人の解釈じゃね?
文明のレベルというか文化的な価値観があまりにも違いすぎる相手だと「敵が圧倒的に優勢」ということがそもそも理解できない場合がある。
たとえば鎌倉武士は火薬兵器を持った蒙古軍に本気で一騎討ちを挑んだし、中南米にスペイン人やポルトガル人が攻め込んできた時期もアステカやインカの人間は随分長いこと不利を認めずに抵抗した。
幕末に日本に黒船が来たときなんざ、アメリカ人が文明の差を見せようと日本人の前で小型の蒸気機関車を走らせて見せたのに対し、単なる変わった見せ物としか思わなかった日本人は返礼に力士を呼んで相撲を見せてドヤ顔してたという。
第二次世界大戦の初期にも、ドイツ軍の戦車部隊にポーランド軍が騎兵で対抗したり、日本軍は末期まで戦車と機関銃と火炎放射器に刀と竹槍で対抗する気だった。
そのへんを、考えると『ゲート』劇中の帝国人の反応にリアリティがあるとは思えない。
もし本気でリアルな『ゲート』を描くなら、劇中の自衛隊員がいくら帝国人を撃ち殺しても中世メンタルの帝国人は誇りを重んじて降伏せず、文明人の自衛隊員はそんな帝国人の姿を本気で恐怖しながら、まったく不本意ながらも、やむなく大虐殺をせざるを得なくなるのではないか。ベトナム戦争時の米兵のように。
というか、その文明人から見ての中世人が「大東亜戦争当時の日本人」なのだが。

笛吹けど人踊らず

人手不足で倒産増 外国人就労拡大を要請へ
人手不足で企業の経営が回らなくなり倒産が増える中、日本商工会議所は、政府に外国人の就労受け入れ拡大の検討を求めることを決めた。
(中略)
一方で、外国人の就労条件をゆるめることは治安の面などから反対の声もあり、受け入れの基準をどうするのか議論を呼びそうだ。
http://www.news24.jp/articles/2017/11/16/06378104.html

この10数年「日本でも移民を増やせば治安が悪化するぞ」と言われ続けている。この点については『世界の右翼』(isbn:4800271878)でも少しだけ言及した。
現在の日本では外国人技能実習生を含めればすでに移民労働者は100万人以上いる。(『Newsweek』2017年1月27日記事)。こうした状況下、警視庁の『警察白書』のここ10数年分をさかのぼって見てゆくと、日本の人口10万人あたりの刑法犯数は以下のように推移している。
・2001年:2149件
・2006年:1605件
・2011年:1176件
・2015年:865件
なんだよ? 年々移民は増えてるのに、犯罪件数は減ってるじゃねえか!
少なくとも現時点では、日本に来る移民労働者(外国人技能実習生を含む)の多くは、郷に入れば郷に従わざるを得ない状況なのだろう。
わたし個人の漠然とした印象では、さすがに日本でも移民が1000万人(7.5%以上)を越えれば何らかの社会への影響も明確に出てくるだろうが、500万人(4%未満)ぐらいまでは目立つ問題は少ないのではないかという気がする。

本当に日本に移民は殺到するのか???

――しかしである、もっと根本的に疑問なのは、本当に今の日本に大量の移民が殺到するのか? という点だ。
まず、どこの国から移民が押しよせるか? 筆頭に挙がるのは中国だが、長年の一人っ子政策の結果、中国はすでに労働人口が減少に転じている。(『REUTER』2015年2月10日記事)
それに現状、上海や深センは相当に人件費が高騰している。下手をすれば日本企業より待遇の良い職場も少なくない。内陸の貧乏な中国人にとって、わざわざ日本に出稼ぎに行くよりは自国内の沿岸部の方が楽だろう。
それではベトナム、フィリピンなどの東南アジア諸国からの移民はどうか? まさに上記の理由によって、今後は日本と中国で移民労働者の奪い合いになる可能性も高い。
単純労働者ではなく、ITエンジニアなどの高度人材の場合はどうか。今や、中国でも韓国でも東南アジア諸国でも、ITエンジニアなどの高度人材の多くは、日本などすっ飛ばしていきなりアメリカに渡る場合が多い。そりゃそうだ、日本企業では日本人社員による年功序列が強いうえに、相続税も累進税率も高いので、優秀な人材でも個人の富豪は成立しにくい(これは昔から、欧米と異なり日本にユダヤ人実業家が少ない理由に挙げられる)。
地理的な「移民の来やすさ」でも日本は欧米と前提が違う。アメリカでは、陸続きのメキシコから大量の中南米系移民が流入している。EU圏ではブルガリアギリシャと直に接するトルコや、地中海対岸の最短ルートから中東系の移民や難民が流入する。
http://ikeuchisatoshi.com/wp-content/uploads/2015/09/2e7aa8f9cacbe1ba149233453e8c0f9f.png
だが、日本は島国だ。釜山〜対馬〜福岡あたりを例外とすれば、不法移民ないし難民が小型の船舶で東シナ海を越えて渡航するのはかなり困難を伴う。
http://www.jmc.or.jp/images/gsimap.jpg
また、ヨーロッパに流入しているのは、近年問題となっている中東系の移民や難民だけではない。たとえば、イギリスならインドやケニアなど英語圏の旧植民地、フランスならアルジェリアベトナムなど仏語圏の旧植民地からの移民も多い。
しかし、日本は戦後に植民地を手放したので、最初から日本語を習得している外国人は、せいぜいペルーやブラジルの日系移民の子孫ぐらいだ。
世界には旧英領の英語圏、旧仏領の仏語圏は多い。中国語も、中国本土のほか台湾、シンガポール、華僑が多い東南アジアの一部では通用する。ところが、日本語は漢字かな混じりで習得が困難な割に日本以外では使えない。十数年前からニューヨーク在住で日本語教師をしている友人は、日本語教師の時給はバブル時代の1990年代より格段に下がっており、中国語教師の方が人気だとぼやいていた。
――上記のような理由で、日本でも移民が殺到して今のEU圏で起きてるように治安の悪化が広まる事態は、少なくとも当面は可能性が低いんじゃないの? という気がする。
ただし、日本で中国政府を非難している右派の立場に立つなら、もしチベットウイグルからの難民や中国の支援を受けているミャンマーからのロヒンギャ難民が日本に押しよせた場合、受け入れなければ日本人の道義心が問われるだろうが。

捏造される「伝統」

宮中晩餐会の同性パートナー出席、反対」自民・竹下氏
「(国賓の)パートナーが同性だった場合、私は(晩餐会への出席には)反対だ。日本国の伝統には合わないと思う」
http://www.asahi.com/articles/ASKCR52GFKCRUTFK006.html

どうやら竹下亘総務会長の見解によると、ゲイが天皇や皇族と同席するのは「日本国の伝統」に反するらしい。
ほほう。竹下氏は、平安時代の末期に鳥羽上皇に仕えた左大臣藤原頼長男色家だったとか知らんのか。さらに言えば、後白河上皇の寵臣だった藤原信頼は、上皇の男色の相手だったという説も根強いのだが。
つい先月にも記したが、日本国において「ホモは嘲笑すべき対象である」という発想自体、西洋文化の真似をはじめた明治期以降の風潮に過ぎんのだがなあ。

弱者への嫉妬について

「英雄ってのはさぁ…英雄になろうとした瞬間に失格なのよ。お前、いきなりアウトってわけ。」
北岡秀一 『仮面ライダー龍騎
https://www.youtube.com/watch?v=vqV1ZBM-d6E

前々から思っていたことであるが、わたしは「キモくて金のないおっさん=かわいそう論」というヤツがどうも嫌いである。
47歳独身彼女なし数年前まで年収100万円台で、平日昼間に自転車で小学校の横を通っただけで警官に呼び止められこともある当方は、まさに「キモくて金のないおっさん」を絵に描いて額縁に入れて美術館に飾ったような存在なのだが、同輩がみずからかわいそうな弱者という顔をするのを見かけるとイヤな気分になる。
じゃあ、「キモくて金のないおばちゃん」や、「キモくて金のない男子小学生」や、「キモくて金のない若い女性」や、「金はあるがキモくて人望のないおっさん」や、「イケメンだが金がなくて結婚を諦めた若い男」はかわいそうじゃねえのかよ?
近年になって、「キモくて金のないおっさん=かわいそう論」が出てきた背景にあるのは、従来の左翼リベラル派の価値基準では「女性や子供や身体障害者や日本人以外のアジア人は『弱者』として扱ってもらえるのに、日本人成人男性はどんなにみじめな立場でも『弱者』として扱ってもらえない」という"弱者への嫉妬"意識だろう。
それは理屈としてわかる。それで「俺も『弱者』様になりたい」「俺も『弱者』として認めろ」ということであろう。だが、当方としては、先に引いた仮面ライダーゾルダ北岡弁護士の台詞に倣って、「弱者ってのはさぁ…弱者になろうとした瞬間に失格なのよ」と考えている。
ああ、そういや昔、椎名林檎「♪同情を欲したときに すべてを失うだろう」(『歌舞伎町の女王』)って歌ってたな。
キモくて金のないおっさん問題といえば、かつて話題になったこんなツイートがあった。

シエ? @s_sh
20代の知人女性が「運転中にパンクして困っていたところ、通りがかった男性に助けてもらった。歳はたぶん40代で、小太りで少しハゲていて、見るからに独身という感じだった。すごく気持ち悪かった」と話していて、人生の悲しみのすべてがここに詰まっているなと思った。
23:34 - 2013年5月29日
https://twitter.com/s_sh/status/339993187294801920

わたしが同じ立場にあれば高確率で、いや、ほぼ確実にこのおっさんと同じく「すごく気持ち悪かった」と評されると思う。が、だからといって怒る気はしない。先の北岡弁護士の考え方に沿えば、若い女性に感謝されることを期待する時点で不純だからだ。
それでも、もし自分が上記の場面に出くわしてパンクの修理を手伝える状況にあれば、手伝ってやるかなあと思う。自分の持っている「パンクを修理する技術」がもったいないからだ。
それで相手が感謝の念を示すより「気持ち悪かった」と思っても、こちらから修理を申し出た以上は文句を言える立場ではなかろう。人の感情には優先順位というものがある、先方が善意100%で高級ワインを勧めても、こっちは一滴も酒が飲めないからただの大迷惑という場合だってあるのだ。相手は「パンクが直ること」より「気持ち悪い中年男とは一切関わり合いたくない」の方がよほど大事な人だったのなら、その時はその時だ。
人に善意を示すときは見返りを期待するなという話である。

近代以前の男尊女卑は幸福だったか?

言うまでなく、「キモくて金のないおっさん」は、別に21世紀になって突如出現したわけではなく、いつの時代どこの国にも存在していたはずである。
それでも、男尊女卑的な社会秩序が機能していた時代には、大人の男(おっさん)はただ「大人の男」というだけで、ある程度は女子供にデカい顔ができた。それはなぜか? ただ単に世の中全体、圧倒的に筋肉労働中心だったからではないのか。
要するに、今のスマホとコンビニと電車とエアコンその他のある便利な文明社会と、無条件の男尊女卑環境はトレードオフなのだ。大人の男が大人の男というだけで尊敬されたいなら、筋力で獣を狩ったり筋力で畑を耕す前近代社会に戻るしかあるまい。
世の非モテ論者の中には時おり、自分が結婚できないのは戦後の男女平等のせいだ、戦前のような男尊女卑社会なら自分でも結婚できてたと述べる者がいる。
だが、その戦前、日本人の圧倒的大多数は農民だった。当時の世の男性に要求されていたのは、田畑を耕したり、炭鉱で石炭を掘ったり、軍隊で重たい装備品を担いで何千キロも行軍する能力であり、それらに耐え得ない者では到底モテ得なかった。
また一方、戦前ないし前近代社会であれば、無条件に男尊女卑であるからどんな男も結婚できていたかといえば、常にあぶれる男だっていた。
輿那覇潤の『中国化する日本』(isbn:4163746900)によれば、江戸時代当時、農村では農地を継ぐ長男以外の次男三男坊以下は、農村から都市に捨てられる存在だった。江戸の人口は男2人に対して女1人だったという。
江戸や大坂のような大都市では、近隣の農家の次男三男坊以下が流入して長屋に住みつき、日本橋で人足でもしながら吉原通いでもして、結婚もせず30代40代でのたれ死に――なんて与太郎がゴロゴロいたはずである。自分もまたそんな大量にいた与太郎の後継者の一人と思えば、特段に自分だけが不幸とはまったく思わない。

「劣者のノーブレスオブリジュ」というプライド

ただし、いい歳をして妻子もない独身男であることを「申し訳ない」という意識はある。
何しろ自分も成人するまでは親に育ててもらった、その養育費を一切払わない代わりに、自分も成長後は親となって子供を育てる……という形で人類はずっと続いてきた。未婚で子なしのまま死ねば、親世代に対して借りだけが残る。これは申し訳ない。
だから、結婚して子供のいる人々は皆、自分の代わりに義務を果たしてくれていると考えている。それゆえ、自分の収めた税金やら保険料やら年金やらが少子化対策や保育園助成に使われるなら、まあ納得せざるを得ないだろう、と。
男の「キモくて金のないおっさん」問題と表裏をなすように、女性の側には「未婚女性は産休を得られる女性のために損をしている」という意識があるらしい。

いきいきママ」で業務が崩壊した話
http://b.hatena.ne.jp/entry/s/anond.hatelabo.jp/20171023112949

産休を支えている未婚の女性労働者も、可能性のうえでは、自分が出産したときには産休制度の享受者になり得るのだから「お互い様」ではないか。わたしが女性だったら、自分は子育ての責務を免除されてる代わりに産休代理の労働をしていると考えるけどな。徴兵義務免除と引き換えの労働奉仕みたいに。
本来ならば、自分には子供がいないなら、代わりに自分が成人するまでの養育費を親に返さないと格好がつかないという意識が頭の片隅にあるので(一向に実践はしないが)、子供がいる人間のための労働奉仕を要求されるのなら、まあ納得はできる。
先に引いた「パンクを助けて気持ち悪かったと評された中年」の話も、この産休制度を支える裏方も、あえて損な役を引き受けることを、一種のノーブレスオブリジュと考えることはできないだろうか? 愚痴れば醜く思われるが、「自分は人のため嫌な仕事をあえてやっている」という考え方をすれば、最低限、内面の優越感は維持できる。
先に触れたような前近代〜戦前の男尊女卑を支えていたのは、「いざとなれば、成人男性は女子供を守れる」というありがたみと、そのような意気込みである。
どうも現在の保守・右派は女性や身体障害者などの社会的弱者に手きびしい場合が多いが、かつては保守的な道徳観のなかにも、騎士道精神や義侠心といった、弱者のために戦うヒロイズムがあった。「キモくて金のないおっさん」を論議にしたがる人々には、そういう男としての美意識やストイシズムが感じられないから、当方としては同情心が湧かないのだ。
こういうことを述べると「男の騎士道精神や義侠心なんて自己満足なパターナリズムじゃないか」というツッコミが入ること必至だろう。だが、当方としては自己満足なパターナリズムで上等、せめてそれぐらい示せなければ成人男性が成人男性というだけで尊敬してもらえる最低条件もクリアできないではないか、と思うのだが。

周回遅れの最先端

私はとんねるずが好きなんだけど嫌いな人や批判してる人が何をいけないと言ってるのかすごくよくわかる - id:lisagasu - lisagasu - はてなハイク
http://b.hatena.ne.jp/entry/h.hatena.ne.jp/lisagasu/316623163035337899

とんねるず自体に対しては、「いまだにバブル時代のギャグがウケると思ってんのかよw」という感想しかない。
わたしは、まさに上記の方がお書きになっている理由でとんねるずが嫌いだった。本物の勝ち組リア充は、とんねるずみたいに必死に「見ろ! 俺たちこそ明るく、イケてる」というノリの強要なんかしないし、異端・ネクラ叩きで笑いを取ることもしない、勝ち組リア充だけの世界で閉じて自足してるからだ。かつて和光大卒の小山田圭吾は楽しげにいじめ自慢を語ったが、東大卒の小沢健二はそんなことはしなかった。
それはさておき、今回の件で噴出した「昔は良かった。今みたいにLGBTだの何だの配慮していては、あらゆるお笑いが成立しなくなるぞ」と、これまた狼が来た少年のように語るご意見には「そうかあ?」と感じる。
古典落語には、盲人を扱った『心眼』など、障害のある人間をネタにした噺がたまにある。『藪入り』など男色や衆道の要素が出てくる噺もあるが、男色や衆道自体を笑い物にした噺なんてあったっけ? 当方は寡聞にして知らない。
東海道中膝栗毛』の主人公の弥次さんと喜多さんは、男色関係だとWikipediaにもハッキリ書いてある。『好色一代男』の主人公は男女両刀使いであった。近代以前の大衆文化ではゲイは何ら珍しいものではなかったのだ。日本においては「ホモは嘲笑すべき対象である」という発想こそ、むしろ近代以降の新しい思考ではないのか?
ゲイを笑い物にするのは欧米に遅れているから恥ずかしいのではない、昔は存在しなかった一時の流行り物にしがみついているのが恥ずかしいのではないか。

米朝開戦を「正しく怖がる」試論

「今回は大量の難民、覚悟しなきゃ」麻生副総理
2017年10月14日16時33分
http://www.asahi.com/articles/ASKBG4JXFKBGOHGB009.html

もし米朝開戦となれば、日本に北朝鮮ないし韓国から難民が流入する可能性は充分にある。だが、1950年の朝鮮戦争当時とまったく同じような事態になるかはわからない。
北朝鮮からの難民発生の場合の流入

  • 韓国(陸路/地雷原・武装地帯あり)
  • 中国(陸路/部分的に渡河が必要)
  • ロシア(陸路/部分的に渡河が必要)
  • 日本(海路/最短で400km以上)

韓国の釜山〜対馬ならゴムボートでも渡航可能だろうが、北朝鮮から日本海を越えるにはそれなりの大型船がなければ無理だ。北朝鮮から難民の大多数は、まず中国かロシアか韓国に向かうのではないか?
http://www.jmc.or.jp/images/gsimap.jpg
EU圏への中東難民の流入も基本的には、シリア→トルコ→ギリシャ、と陸路である。
武装した難民を意図的に送りつける偽装難民工作員によるテロも、可能性としては充分にありえる。だが、北朝鮮にそれを大々的に行う力があるかは疑問がある。
北朝鮮と自国の二国だけしか視野に入れてないと見落としがちだが、実際には北朝鮮は日本だけを相手にしているわけではない。
米朝開戦した場合の北朝鮮にとっての警戒優先度

  • 南北国境の防備(在韓米軍の陸路北上)
  • 首都平壌の防空(爆撃、ミサイル攻撃対策)
  • 沿岸の防備(韓国・米国海軍の艦砲射撃、潜水艦ミサイル攻撃対策)
  • 中朝国境の防備(中国が米国と手を結ぶ可能性への対策)

日本は島国だから陸続きで敵の陸軍が殺到するという想像力がないが北朝鮮にとって最大の脅威は在韓米陸軍の北上である。
防衛白書』によると、北朝鮮の兵力は約100万人で、韓国軍、在韓米軍、自衛隊在日米軍を全部足した数より多い。
http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2017/html/n1120000.html#zuhyo01010201
ただし、北朝鮮の総人口は約2516万人ほどで、韓国の半分しかない。銃後の生産力などを含めた国力全体を考えると、防戦で手いっぱいだろう。
日本への破壊工作はあり得るが、南北国境の防備、首都平壌の防空に比べれば、優先順位はかなーり低いはずである。しかも、状況によっては中国が裏切る可能性まである。小規模の工作員在日米軍自衛隊を攪乱できるかといえば、効果も低そうだ。
では、いきなり日本の大都市に核ミサイルを撃ちこむかといえば、そんなことをすれば、大事な金ヅルの朝鮮総連関係者まで大量死する。金日成時代ならともかく、豊かな日本の生活に何十年も首まで浸かった今の総連関係者が、核ミサイルを撃たれても喜んで金正恩のために死ぬかといえば、いまいちビミョーな気がする。
もし日本国内の総連関係者が本気で逃げ出す兆候を見せれば本当に危ないが、それはとっくの昔に日本の公安も考えてるはずで、総連を見張ってるだろう。
では次に、北朝鮮ではなく韓国から避難民が殺到する可能性はどうか。
●韓国からの難民発生の場合の流入

  • 日本の福岡(最短コース)
  • 米国(有産階層は一足飛びに米国亡命しそう)
  • オーストラリア(現時点では北朝鮮ミサイルの目標外)
  • 台湾(米中正面衝突にならない限り日本よりは安全)
  • 中国内(中朝衝突はないと判断できる場合)

先に触れた麻生太郎副首相の言葉は、朝鮮戦争が起きた1950年当時、韓国にもっとも近い福岡にいた体験の重みがある。韓国からの脱出者は一定数、釜山から福岡に殺到するだろうし、そうなれば一時的にであれ、難民キャンプが必要になるだろう。
ただし、1950年当時とは異なり、現在の韓国民のGDPなら逃亡先は複数選択肢から選べる。一定以上の富裕層は、日本ではなく一足飛びにアメリカかオーストラリア、あるいは確実に北朝鮮のミサイルの射程外の南米だか欧州だかに逃亡するのではないか。
日本に逃げても、核ミサイルの射程範囲という意味ではぜんぜん安全ではない。となれば、ひとまず日本に流入した難民も、可能な限りもっと遠くの国へ逃げたいだろう。一回転した発想で、中国こそ安全と考える人間も少なくないかも知れない。