電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

2008-01-01から1年間の記事一覧

2008年最後の挨拶とか年間ベストとか

そんなわけで、なんとなく恒例となっている、私的年間ベストの2008年度版です。 今年は、毎年これやってる仕事仲間の河田拓也氏(id:bakuhatugoro)と奈落一騎氏(mixiに入っている方はこちら)がどっちも先に書いてますが、当方はギリギリまで仕事だったん…

あらゆる可能性を想定した実用書

――と、そんなわたしのごたくは良いのだが、実務教育出版『「裁判員」のことがよくわかる本』(isbn:4788907690)刊行。 右も左もわからないままとにかく裁判員候補者名簿登録者へのお知らせが来てしまった、という人のための実用書です。 当方は、おもにPART.…

わたしはなぜ裁判員制度に反対しないのか

かねてより実施が予告されていた裁判員制度だが、ついに11月末には、候補者名簿登録者へのお知らせが発送され、各地で「俺はこんなもんいらねえ」だの「どうしたら辞退できますか」だの「私には人を裁くなどというご大層なことはできません」といった反響が…

戦後平和主義の枠内のヘタレ愛国者

毎度毎度いちいち旬からズレた話題を遅れて書くが、しばし前に話題になった田母神俊雄・前航空幕僚長の「日本がやったのは侵略戦争ではない」(←要約)の論文の話。 田母神論文は、早い話「日本はハメられた被害者だ史観」であるらしい。 なるほど日華事変の…

時代論メモ

いかにも最新の情勢にうといオジサンのように『お前が若者を語るな!』後藤和智(isbn:4047101532)と『論争 若者論』文春新書編集部(isbn:4166606654)を読んでみる。 『お前が若者を語るな!』は、なんというか、宮台真司とか大塚英志とか香山リカとか荷…

時はめぐる

時は過ぎ行くとお前もそう思うか? 否、断じて否。 時はただそこに留まり我々だけが移ろいゆくのだ。『紅い眼鏡』押井守/伊藤和典 このブログを開設したのが2003年の11月24日だったので、5周年となった。 5年間といえば、小学6年生中学生が大学1年生になる…

『攻殻機動隊 S.A.C』は『怪奇大作戦』である

わたしが小学生のころ好きだった特撮作品で『大鉄人17』という巨大ロボット物があった。 主役メカの17(ワンセブン)というのは、鉄人28号のような主人公が遠隔操作で操るロボットだ。最終回では、主人公の少年は相棒ワンセブンともに敵のボスに特攻して死の…

『攻殻機動隊SAC TACHIKOMA’S ALL MEMORY しょく〜ん!』

差別の善用は可能か

以前からもう何度も何度も何度も何度もしつこく書いていることだが、わたしは激烈な差別主義者である。毎日のようにナチスのような民族大虐殺をやっている。ただし脳内で。 毎日、瑣末なことでムカつく。 たとえば、自転車で買い物に行ったら、前から子供連…

権威と権威主義の違い

仕事のため凄く久しぶりに靖国神社遊就館に行った。展示物を見ていたら、幕末に尊皇派が使った「錦の御旗」というものが展示されている。 幕末維新期、もともと尊皇派は幕府という権力に対する反体制の逆賊だったが、帝の象徴であるこの錦の御旗をかざしたこ…

どマイナー路線担当

結局『スカイ・クロラ』も『崖の上のポニョ』もまだ観とらんくせに、惑星開発委員会の同人誌『PLANETS』Vol.5の宮崎駿&押井守特集に、ホンのちょこっとだけ寄稿。まあ、『紅い眼鏡』や『トーキング・ヘッド』や『立喰師列伝』を論じるんなら俺が、とは思っ…

空気を読んで崖下に落ちる

例によってまた何を今さらな話の後出しジャンケン的ツッコミ。 8月初め、東京ビッグサイトのワンダーフェスティバル会場で、客の乗りすぎでエスカレーターが事故を起こし負傷者が出た。 ワンダーフェスティバルは模型・ガレージキット関係のイベントである…

「おしなべて」普及委員会発足宣言!!

ところで、佐野眞一御大もどうやら「すべからく」を誤用していたらしいのを見て少しだけ力が抜ける。 「すべからく」を「すべて」の古風で上等でエラそうな表現だと思って誤用した表記は、酒見賢一の『後宮小説』やら安永航一郎の『海底人類アンチョビー』や…

汚れた至誠の軌跡

発売以来あちこちで絶賛されていた、佐野眞一『甘粕正彦 乱心の曠野』(asin:4104369047)ようやく読了。 なるほどこれは大著の力作だ。凄い。その感想を無理やり一言で書けば―― 「やっぱり、屈折のある奴の愛国心は面白い」 ――ということに尽きる。不謹慎か…

また昔の話

このブログとは別個に作って放置してた個人原稿アーカイブ「B級保存版」に、葦原骸吉獄中回顧録を掲載(この話は過去にも断片的には語ったことがあるが、きちんと書き起こしたのは初めてだ)。 ここ最近、秋葉原通り魔事件以来、便乗模倣犯みたいな事件が絶…

意見がまとまらないのは善きこと哉

例によって、話題の旬が過ぎてかけた頃になって今さら後出しジャンケン的発言をする。 秋葉原通り魔事件が起きて以来、ネット世論では、犯人の加藤智大を、搾取された派遣社員や非モテ男子の代弁者と見なす声、またそれを否定する声などが入り乱れた。 まあ…

「白髪三千丈」の真相

本当にまともに開催されるのか? と案じられる北京五輪もあと1ヶ月余り、というわけで、扶桑社文庫『徹底図解 中国がわかる本』小口彦太監修(isbn:4594056946)刊行。 世に多くの『中国本』があふれているが、本書はとりあえずお手軽な形で統計的データを…

人間心理の逆説について

と、いったところで、前回の、映画『靖国 YASUKUNI』の話についてのエントリに少しだけ補足したい。 先日触れた「街宣右翼は愛国者のイメージ悪化を狙った反日勢力の自作自演」という説を信じたがっている人間は案外多いらしいので、この機会に、それについ…

「納豆菌は賢者の石」説

PHP文庫『伝説の「魔法」と「アイテム」がよくわかる本』(isbn:4569670431)が刊行。 今回は―― 1.戦闘系の魔法とアイテム (メドゥサの邪眼、孫悟空の神仙術etc) 2.回復系の魔法とアイテム (聖杯、霊薬エリクサー、人魚の肉etc) 3.変化系の魔法とアイテム…

考える自由の能力なくば言論の自由は持ち腐れだ

それに、『1984年』のイングソック国オセアニア国や北朝鮮のような独裁国ならいざ知らず、日本のようなタテマエ上「自由」な国では、世の中は別に、権力者だけの意志でも回っていない。 先の、映画『靖国 YASUKUNI』を渋った劇場や、日教組に教研集会の会場…

真の言論弾圧の形はそんな単純なものではない

深夜アニメの『図書館戦争』を観ると、有害図書を葬るため軍隊が日常的に出動するとかいう世界観を描いている。たぶん、この作品は別に思考実験的なSFとかではなくアクション物を目指しているのだろうが、なんという古典的な管理社会イメージであろうか(ま…

幽霊の正体が枯れ尾花であっても

ところで、本作品を上映中止に追い込んだかも知れない圧力の正体とは、いったい何だったのであろうか。 映画『靖国 YASUKUNI』の上映に関する問題でも、その少し前から話題になった日教組の教研集会場の問題でも、劇場なり、集会場のホテルなりは「右翼の抗…

真剣な人間は、おかしくて、哀しい

また、映画『靖国 YASUKUNI』の終盤では、戦前戦中の記録映像として、当時の軍人による、軍刀を使った訓練、軍刀を使った捕虜処刑の映像などがいくつか出てくる。 これに対しても「こういう映像は、日本の旧軍人をことさらにファナティックで野蛮な存在に見…

球児の墓にユニフォームで参拝するのは異常か?

ここしばらく仕事が詰まっていたので今さらになったが、映画『靖国 YASUKUNI』を観に行ってきた感想。 まず冒頭、軍服を着て靖国神社に参拝し、金切り声を上げる老いた元軍人の一群が登場する。本作品ではこの手の実録映像が結構あり、「街宣右翼は愛国者の…

「役」「キャラ」あってこその個人?

あと、個人的に『昭和三十年代主義』を補完するようなことをあえて言えば、消費マーケティング的な観点で見ると、昨今の昭和リメイク映画、TV映画の全盛状況は、作り手、売り手の立場では、リスクの大きいまったくの新製品より過去の売れ行き実績から安心が…

「軽薄短小」「情報化社会」はもう古い?

『昭和三十年代主義』の後半では、宮部みゆき『模倣犯』に登場する犯罪者「ピース」を例に引きながら、昭和三十年代的な堅実さの対極というべき、実体的労働を軽蔑して情報を操る立場にたつことに優越感を覚える心性を容赦なく批判する。 「ピース」は、典型…

仕事に顔のあった昭和、仕事に顔のない現代

産業が高度化してなかった時代とは、仕事が具体的だった時代、ということだ。 一日じゅうオフィスのパソコンをカタカタやっていても、傍目には何の仕事をしているかわからない。だが、畑を耕したり、自動車を修理する仕事なら何をしているかすぐわかる。 「…

貧乏は正しい(by橋本治)

数年前から予告されていた、浅羽通明『昭和三十年代主義』幻冬舎(asin:434401491X)がついに刊行。「あ、出てたんだ」と気づくのが遅かったが、やっと読了。 ミもフタもなくいうと、読んだら明るい未来が開けるでもなく、読者を良い気持ちにさせてくれるで…

産業革命と市民革命の関係

(※以下は、仕事で19世紀帝国主義に関する本をいくつか読んでてふと思いついたこと。例によって根拠薄弱な素人の思いつきレベルの域を出ません) 18世紀以降の産業革命では、まず紡績機械の発達で織物・服飾産業の生産量が増大し、さらに、蒸気機関を利用し…

言論の自由と恥の意識

先頃、横浜事件の再審を退ける判決が下された。 もっとも、恐らく現在の圧倒的多数の日本人にとっては、まったくどうでもよい他人事であろう(というか、横浜事件て何ソレ? という人の方が99.99%以上か) ――なんてことを考えていたら、深夜に旧知の元先輩…