電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

良い子は手本にするものではありません

月刊『ランティエ』長月号が戦争特集をやってたので立ち読みしてたら、玉川和正氏の「人生のシンクロニシティ」で中江兆民北一輝甘粕正彦の三人の人物を取り上げて論じていたのだが、甘粕正彦についてで、なんか覚えのある文章に出くわした。
って、なんのこっちゃ、俺の書いた文章じゃねえか!
『B級保存版』「正気の狂人と無冠の帝王」に書いた「『大杉栄伝説』は甘粕正彦の作品である」という一節が引用されている。しっかり引用元URLまで書いてくださっていた。
本読んでていきなり自分が過去にネットで書いた文章が引用されてた、というのは、『別冊宝島428 おかしいネット社会』(1999年2月16日発行)の大月隆寛「あらかじめ予告された九〇年代!!」以来だ。
(ちなみにその文章では、同じく当方の『B級保存版』収録の「地方・高卒・男という暗黒大陸」が引用されてる)。
まあしかし、今となっては少し補足も必要あるかと思う。わたしが件の甘粕正彦についての文章を書いた当時は、多分まだ、小林よしのり戦争論』が出る前か出た直後で、「戦前の日本軍は決して悪者一辺倒だったわけでもない」史観の方がマイナーだった最後の時期である。
当時わたしとしては竹中労の『FOR BEGINNERS大杉栄』(現在はちくま文庫の『断影 大杉栄』で完全版が読める)に感じ入るところ大だったので「『大杉栄伝説』は甘粕正彦の作品である」という説を書いた次第。
大杉自体はまったくデタラメな人物だが、平和憲法下で反体制・反権力を利権化できた時代の人間ではない、そもそもが陸軍幼年学校きっての秀才からの自発的ドロップアウトで、少なくとも、本気で主義のために人生放り捨てておっ死んだ人間だ。
一方、甘粕は、事故による意図せぬドロップアウト憲兵となり、陸軍の汚れ仕事役を勤めてきた、それだけに満洲帝国の虚構性を熟知し、だからこそ満州帝国と心中した(彼には帰る所が無かった)という逆説的な潔さの人物だった。
まともな人間が見習うべき人物像とは言えないが、時代によっては、命を捨てて掛かってる人間にのみ果たしえる事もあるのだ、と考えさせられる材料になる点は大ということか。