電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

糞狂い九頭龍様、僕らを連れてって〜

猛暑が続く中、ゆえあって平日昼間からラヴクラフトやらのクトゥルー本ばかり読んでいる(別に納涼が目的ではない)。
ラヴクラフトは幸か不幸か第二次世界大戦が始る前に死んだが、10年ばかり前に出た『幻想文学別冊 ラヴクラフト・シンドローム』などによると、彼は凄まじい人種差別主義者だったそうで、KKKやらナチスやら、モーズリーのイギリスファシスト党(銀シャツ隊)も支持していたらしい……と、こういう話を聞くと複雑な気分になる。
アメリカ的バカ明るさノリ強要の教祖だったウォルト・ディズニーや、アメリカ的太っ腹体育会系のヒーローだったベーブ・ルースが、実は凄まじい人種差別主義者だったと聞いても、まあ、仕方ないよね、と思うというか、今さら嫌な感じはしない。
だが、歴史のない国アメリカの都会を嫌った引きこもり文学者の星ラヴクラフトもそうだったと聞くと、(まるでおぼこくさい中学生のように)少し悲しい気分になる。
別に、怪奇幻想文学に耽溺するネクラな僕らのお仲間の筈の人間に悪い奴はいない筈だ、とか、乱暴なドキュン男とは違ってオタク男こそ本当は優しいんだ、とか本田透氏のようなことを今さら言いたいのではない。
むしろ逆である、都会のオシャレな俗世間に馴染めず片田舎のプロヴィデンスで平日昼間から土蔵に籠もって暗黒神話の創造に励んだ男は凄まじい人種差別主義者だった――って、今のネット上に一山幾らで転がってる差別大好きの引きこもりと同じじゃん! っていうか、そのまんま過ぎるじゃん! ――というあまりのひねりの無さに悲しくなるのである。
しかし、有色人種の土人や蛮族をぼろくそに醜く描いたラヴクラフトだったが、彼とその影響下の弟子達が持っていた、ほとんど一種のマゾヒズムに近い異界の邪神や怪物たちへの同化願望は、これまた本物であろう。
彼らの作品を読んでると、本ッ気で、「人間だけが神の被造物として特別」などとするキリスト教文化や、せせこましい地上の文明人より、海底神殿の魚人やら遠い異星の怪物やらに自らなりたがってるとしか思えない。要するに「俺は有色人種のドキュンどもとは違う、チャラチャラした都会のヤッピーどもとも違う、現世を超越し邪神たちの世界を幻視する俺らこそ真の選ばれし民なのだっ!」と言わんばかりの意気だ。
ハッキリ言って、ここまで来ると皮肉や嫌味抜きにいっそ微笑ましい。
昨今ネット上に横行する差別大好きの民も、この調子でひとつ脳内満洲帝国やら脳内第四帝国を作るところまでイってくれれば見ものである。