電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

余談

本書で食い足りない点をあえて言えば、昭和十年代の満洲開発と戦時体制をリードした岸信介らの「革新」官僚とそれを支持した軍の青年将校たちは、思想的には「右」だが、経済政策的にはまさに国民平等の社会主義「左」そのものだった点に触れて欲しかったかな。この辺は目下『週刊新潮』で連載中の野口悠紀雄「戦時体制いまだ終わらず」でやってくれてるからあえて触れなかったのかも知れないけど。
あと、中央集権と地方分権という対立図式にも少しは触れてくれてると面白かったかも。一見、中央集権が保守的(右)、地方分権が革新的(左)と見えるが、アメリ南北戦争自由主義奴隷解放を唱えた北軍は中央集権、大地主保護と奴隷制度を唱えた南軍は地方分権派だった。
中央集権は地域の伝統を無視して均一な国家開発を進めるからむしろ近代的、郷土ナショナリズムにこだわる地方分権こそ復古的前近代的という皮肉な構図がある。
ドイツでもプロイセン帝国の「前近代的」な地方分権を終わらせたのが「近代的」なナチスだった逆説ですからね。
でもまあ、このへんの話は、すでに全国均一に開発が進んでしまった戦後日本に引き寄せて語る意味が乏しいか。
あと、この本の巻末には浅羽先生が参考に使った本が紹介されてますが、その中にない一冊として、近代フランス右翼の変遷などにちょっと興味の湧いた人には、中公新書ファシスト群像』長谷川公昭(isbn:412100664X)をお勧めしときます。
この本は「ヒトラームッソリーニ以外の」欧米の泡沫右翼政治家を概説したもので、浅羽先生が触れてたフランスでの王政復古派→反ユダヤ右翼、さらには戦時中の親独右翼の流れを詳しく説明してくれてるほか、挙国一致軍事独裁者(ポーランドのピウスツキー)、立憲君主ファシスト体制(ルーマニアのカロル二世)、キリスト教右翼(アメリカのカフリン神父)など、右翼指導者にもいろいろあることがわかって実に面白いです。