電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

3.ルポ『ネットと愛国』

安田浩一:著(isbn:4062171120
在特会をはじめとするネット右翼団体・活動家を追ったノンフィクション。
すでに多くの人が指摘しているが、本書は決してただ一方的に在特会員やネトウヨを批判するスタンスではなく、もぉ馬鹿丁寧までに彼らの姿勢に沿っている。
取材された側にも、意外に快く証言している人間が少なくない。なかには無意識にポロリと漏れた本音なのか、恐ろしく正直な言葉も少なくない。
在特会仙台支部の街宣に参加した41歳の男性の発言。

「在日の連中、おとなしく普通に暮らしてくれるんだったら、俺ら、何も言わないですよ。でも生活保護もらって高級車乗り回してるヤツがいるからね。直接に見たことがあるわけじゃないけど。」(86p)

在特会が京都で行なったデモに参加した30代の男性の発言。

「在日が、なんとなく、羨ましかった」(222p)

近畿地方ネット右翼団体の連合「チーム関西」の元会員という30代青年の発言。

「僕の友人は子ども時代、在日部落の、いわゆる"ハモニカ長屋"に住んでいて、よくその家で遊んでたんですけど、そこの住人の顔まで浮かんできた。いったい、この人たちに、どんな特権があるんやろうって。」(322p)

ともあれ、本当に在日だけが不当な特権を得ているかに関わりなく、在特会員やネトウヨはネット上や街頭演説などで過激に韓国、在日、民主党日教組などを罵る。
そんな彼らを筆者の安田浩一は、一人一人に接してみればおとなしく真面目そうな「フツー」の若者だと強調する……って、そんなの100万年前から知っとるわい!
ネット右翼の多くは善良すぎるまでに善良で純粋な、人間を愛するヒューマニストなのだ、だから仲間の言うことは一切疑わない。そして敵陣営は同じ人間であるわけがないと信じ込んでいる。でもそんな純粋すぎる態度は、いろんな種類の人間の妥協で成り立つ現実社会ではウザがられる。その鬱憤を晴らすように、同意見の人間だけが集まると盛り上がって過激になる――そういうことではないのか?
が、安田氏は、在特会員やネトウヨ格差社会や地縁血縁の空洞化の被害者で、疑似家族や承認欲求、人と人のつながりを求め、その淋しさや苛立ちを韓国や在日にぶつけている「かわいそうな人たち」だとする……嗚呼、なんという凡庸な図式!! こんな力作ルポを書いてくれた安田氏も所詮は「悪い人なんかいない! 悪は社会の産物なのよ」という白々しい左翼の弱者性善説を抜け出せなかったのか?
この一点に関してだけは、安田浩一より10歳下でエンタメ少年漫画家尾田栄一郎による『ONE PIECE』魚人島編のほうが、はるかにリアルだ。
地上の人間を狂ったように憎む新魚人島海賊団のボスは「お前は地上の人間に何をされた?」と聞かれて、平然と「何も」と答える。
彼は何かの被害者もなんでもなく、ただ単にひたすら「地上の人間は悪い奴だ」という情報にだけ触れ続けていたら(ネットの書き込みだけを信じるように!)、実感なき観念的憎悪だけが肥大したキチガイになっていた……というわけだ。
これは秀逸なメタファだろう。在特会らも、逆に中国や韓国で戦後生まれの20代30代で現実の日本人を知らずに声高に反日を叫ぶ連中も、同じじゃないのか?
だがしかし、それでもわたしは安田浩一氏に心の底から敬服せざるを得ない。
彼は本書のエピローグで、自分がなぜそこまで在特会の取材に熱中したかを、これまたもぉバカ正直に吐露している。それは、本書を読み進める間、わたしがムカつきながらもうっすら感じていた思いと、まったく同じだった。

私は、羨ましかったのだ。
楽しかっただろうな、気持ちよかっただろうな。
その思いが今でも消えてなくならない。(361p)

そう、彼らはみずからの正義を断固信じ、志を同じくする仲間と集まって爽やかな汗を流すことに熱中している。その姿は輝かしい。主張内容がいくら下品で排他的で暴力的でも。その仲間になれない自分に疎外感を覚える、だからムカつく。
……だが悪いけど、俺はもう正義とか信じないへそ曲がりなんでね。てへっ☆