電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

6.評論『時間ループ物語論』

浅羽通明:著(isbn:4800300185
本年末は急に『週刊文春』で取材される側になってしまった浅羽先生。真面目な仕事もしてないわけではない。
2000年代のエンターテインメントではすでにひとつのジャンルになった「同じ一日とか同じ数日間がえんえんくり返す話」を解析。映画の『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』から、『ひぐらしのなく頃に』『涼宮ハルヒの憂鬱 エンドレスエイト』あたりまでお約束のアレだ(まあ近年のものは「同じ話を別ルートで」という、ゲーム的発想って面もあるんだろうけど)。
この発想の原点を探ると「若返り物語」の『ファウスト』などに行きつく(そういや手塚治虫の『ネオ・ファウスト』第一部も時間ループ物語だった!)。
ループ物語の「円環する時間」という観念は「直線的に進む時間」と対比される。だが、近代以前の人間にとってはむしろ時間は円環的あるいは螺旋状に進行するという感覚の方が自然だったのではないか? 仏教の説く輪廻転生、暦の十二支、毎年の収穫祭などのお祭り……。
江戸時代の265年、社会の変化は緩やかだったが、近代以降、社会も人間も時間とともに成長し発展すると思われてきた。
敗戦後の1950年、日本のあらゆる世帯にはテレビもエアコンもなかった、そこから高度経済成長期を経た1980年までの30年は大きな変化だ。だが、これに比べれば、1980年から2010年は大して変わってないように見える。
ことにバブル崩壊後の1990年代以降は「失われた20年」と言われるほど日本経済は停滞している。とはいえ今さらテレビもオーディオもPCも携帯電話もみんな持ってる、いやむしろスマホ一台あればそれで済む。それでどう発展しろと?
……ループ物語を考えるとそこまで話が広がる。もっとも、一個人的には、ループ物語形式と並ぶ2000年代のエンターテインメントのもうひとつの潮流「バトルロワイアル物」も論じてくれたらどうなるか気になるところ。『仮面ライダー龍騎』も『未来日記』も典型的な「バトルロワイアル物 + 時間ループ物」だし。
(これは、宇野常寛著『ゼロ年代の想像力』が先鞭をつけてるけど)