電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

7.映画『楢山節考』

監督:木下惠介1958年版
監督:今村昌平1983年版
原作を読んだのは20年も前だが『中国化する日本』を読んでたら言及されてたのが気になって改めて視聴。
輿那覇潤によると、現実には「婆捨て」はフィクションで、江戸時代にはむしろ農家の次男坊、三男坊こそ口減らしのため奉公に出されて捨てられたとの話。だが、それを踏まえてもなお『楢山節考』という作品には「昔の日本の農村ってこんな感じだったんだろうなあ」という嫌なリアリティがある。
スタジオセット撮影の木下恵介版、奥深い山中でロケした今村昌平版のいずれでも印象的なのが、村の古老たちが楢山参りのルールを説明する場面。
古老たちは一同に集まり、一人一人が楢山に行くときの決まりを教えるのだが、このとき一言しゃべるごとに同じ瓶から酒を飲む。いかにも共犯意識くさい行為。
そして最後に一人が「建前上」いやなら楢山まで行く途中で帰ってもよいと耳打ちする。つまりたぶん、一応は言っておいたという罪悪感逃れだ。
こういうことって、軍隊での徴兵や特攻隊員の選抜のときもやってたのかなあ、という気がする。無論、反対の余地ない一方的な命令とどっちが良いかと言えば即断はできない。そりゃまあ、村のため(国のため)でも「死んでくれ」とは簡単に言えないのも人間心理。世界は善意100%でも悪意100%でもない。