電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

9.ルポ『スエズ運河を消せ』『ナチを欺いた死体』

デヴィッド・フィッシャー:著(isbn:4760140204
ベン・マッキンタイアー:著(isbn:4120042995
呉智英夫子が書評で2冊並べて紹介していた第二次世界大戦の裏話。
スエズ運河を消せ』は、英国のマジシャンが軍に協力して北アフリカ作戦に参加し、はりぼての戦車や1/3スケールの都市模型で敵の爆撃機の目をごまかした欺瞞作戦の話。まあ、レーダーや人工衛星ではなく航空機からの肉眼目視で攻撃していた時代だから通用した手法である。なお、当時の日本にもこれに対抗できる技術の持ち主が一人いたはずだ、そう、映画『ハワイ・マレー沖海戦』で本物そっくりのセットを作った円谷英二である。
『ナチを欺いた死体』は、英軍が偽の命令書を持った将校の死体をわざと放置してドイツ軍に発見させ、連合軍の上陸地点を誤認させた話。この作戦が結果的に成功したのは、英軍が巧妙だったというより、ドイツ軍側が限られた情報を「希望的観測」に合致するよう解釈したからだ。2003年のイラク戦争アメリカ軍が「フセイン大量破壊兵器を持っている」と思い込んだのと同じだ。人間は敵ではなく自分の願望に騙されるのである。
ドイツ軍の情報分析官がじつは反ナチで、かといってリベラル派ではなく、帝政復古派の貴族出身ゆえ成り上がりのナチスを見下していたといったサブエピソードも興味深い。