電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

8.評伝『近世快人伝』

夢野久作:著(isbn:4168130460
幻想小説ドグラ・マグラ』ほかの作者としての夢野ではなく、右翼壮士・杉山茂丸の息子としての夢野の本領が発揮された明治から昭和の人物論集。
なかでも、玄洋社をつくった頭山満の盟友で、薩摩長州藩閥の独裁に反発し続けた国士・奈良原到の一代記と、その意外なまでの日本民族批判が強烈だ。
「結局、自由民権のあらわれである自治政府と議会政治は、板垣の赤誠を裏切って日本を腐敗堕落させた。日本人は自治権を持つ資格のない程に下等な民族であるということを現実の通りに暴露したに過ぎなかった」(99p)
そんな奈良原のキリスト教観がまた面白い。
「日本の基督教は皆間違うとる。どんな宗教でも日本の国体に捲込まれると去勢されるらしい。愛とか何とか云うて睾丸の無いような奴が大勢集まって、涙をポロポロこぼしおるが、本家の耶蘇はチャンと睾丸を持っておった。猶太でも羅馬でも屁とも思わぬ爆弾演説を平気で遣り続けてきたのじゃから恐らく世界一、喧嘩の強い男じゃろう。」(122p)
そう、イエス孔子仏陀も生きていた当時は、ドン・キホーテ的な「革命家」だったのである。