電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

生存報告(最近の仕事)

あんまり長いことブログを放置していると「何やってたんだ?」と思われるので、とりあえず年末年始〜春先の仕事の一部を記しておきます。
『名作名言 一行で読む日本の名作小説』(isbn:4800268370
島崎藤村『破戒』、太宰治人間失格』、小林多喜二蟹工船』、大岡昇平『野火』などの解説を担当。中島敦山月記』はまさに現代のラノベ作家志望やユーチューバーか企業家の挫折した姿、石川啄木『一握の砂』の短歌はニートのツイートみたいなものだと論じてます。
『日本史100人の履歴書』(isbn:480026605X
平安時代の章と近代の章を担当。平安編では、当人の努力ほぼゼロで成り上がった藤原道長、女子校文芸部のボスのごとき紫式部、ほとんど計画性皆無で反乱を起こした平将門などに言及。近代編では、伊藤博文の好色伝説、渋沢栄一の唯一の失敗は後継者育成、東郷平八郎の女子校視察の意外な顛末、東條英機は私利私欲なきブラック企業経営者……といった話を書いてます。
『日本史ミステリー 天皇家の謎100』(isbn:4800268850
神話時代から古代、中世、現代までの皇室の幅広いエピソードを網羅。当方は、紀元節の起源、天皇の輿を担う八瀬童子園遊会の参加者はどうやって決まるのか? 皇族の著作などの収入をめぐる裏話、「元号」の制定過程などについて言及。監修の山下晋司氏にはお手数をおかけしましたが、おかげで中身の濃い本になったと思います。

ウケる温故知新とウケない温故知新

――さて、仕事で日本の歴史を調べていると、先に触れた「逆方向にお花畑」の人がいかに珍妙であるか痛感せざるを得ないことが多い。それも、まったく左翼的な視点ではなく、むしろ保守的歴史観の面から見てだ。
神武天皇は実在した」と主張する方は、『日本書紀』にしっかりはっきり拷問大好きの暴君と書かれた武烈天皇も実在したと認めるのか?
最近は中国韓国は儒教国家だからダメだとか、国語の漢文は廃止せよとかドヤ顔で語る人もいるが、明治期まで旧武士も公家も日本のインテリ層はみんな、四書五経などの漢学が基礎教養だった。明治維新が起きたのは、水戸学などを通じて江戸時代に儒教の忠君愛国思想が普及し、「皇室の権力を奪っている幕府を正すべし」という意見が広まったからだ。「儒教・漢文は悪だ」論者は、明治維新を全否定なさるのか。
今日でこそ戦後憲法との比較で権威的抑圧的に思われている大日本帝国憲法だが、制定時にこれを熱烈に批判したのは、リベラル派ではなくむしろ保守派だった。明治天皇の家庭教師を務めた儒学者元田永孚などは「憲法? 内閣制度? 伊藤博文の奴は西洋かぶれだ、なぜ律令制の復活にしないのだ!」という見解だった。
昨今は立憲主義という概念自体が日本にそぐわないと主張する人もいるらしいが、だったら十七条憲法を制定した聖徳太子反日だったんですか。