電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

真面目左翼がなんJ民に劣るワケ

某所でほぼ同じような話を書いたのだが、なんJ民のヘイト動画通報祭りについて。

ヘイト動画を消滅させた「ネトウヨ春のBAN祭り」はネット上の革命だったのか? | ハーバービジネスオンライン
https://hbol.jp/167028

上記の記事の陳腐さ凡庸さには呆れざるを得ない。「差別動画が消されまくって結構」「ついにネット民が正義(反差別)に目覚めた」って、都合よく自分の願望に合わせた解釈を述べてるだけではないか。
確かに、ヘイト動画を通報しまくってるなんJ民には、純粋に正義感で行動している者も一定数いるだろうし、みずからが深刻な差別の当事者である本物の在日も含まれている可能性はあるだろう。また、思想性抜きに、ヘイト動画によるGoogle検索結果のサムネ汚染にうんざりしてBAN祭りに賛同している人間も一定数いる模様だが、それらだけが多数とは思えない。
なんJ民を含む2ちゃんねらー(5ちゃんねらー)の動機は本質的に、(1)無思想の面白主義、(2)反良識の逆張り根性、ではなかったか?
なんJ民の大多数はヘイトウヨ動画通報祭りを「楽しんで」やってるはずだ。
そりゃ楽しいだろう。
バンバン動画が削除されて目に見える成果が上がってる。
しかもGoogleyoutubeという国際的企業のお墨付きだ。BAN祭り支持者のなかには、ヘイトスピーチを批判した安倍晋三お言葉を掲げている者もいる、つまり今回の件は「権威」を味方にすることに成功している。権威を笠に着て嫌な相手を困らせられるんだから、そりゃ楽しいわけだ。
――従来の反差別・左翼・リベラル派は、このようなネット民の快楽意識に訴える戦略をできなかったのが最大の失敗だ。
正義感だけで多数の人間は動かんよ。
そもそも、余命三年みたいなブログやヘイト動画が蔓延するのは、観客に「俺は日本人というだけでエラい」「ネットで真実を知ったぞ」ってな優越感の快楽をもたらすからだ。
俺はもう10年も前からずっと言ってるぞ、左翼は快楽原則で負けてるって。
左派で、山野車輪、はすみとしこに匹敵する下世話な(しかし読者に優越感はたっぷり与えてくれる)エンターテイナーは出てこないのか?

「春のBAN祭り」の真の画期性?

ところで、先になんJ民を含む2ちゃんねらー(5ちゃんねらー)の動機として「反良識の逆張り根性」を挙げた。
もともと、2ちゃんねるを中心にしたネット世論で、在日韓国人を公然と差別したり、左翼リベラル派の説く人権ヒューマニズムをあざ笑うような右翼的言辞が広まった背景は、テレビや新聞などメジャーなマスコミにおいては、反差別の左翼リベラル派こそが主流であることに対するアンチ意識だった。
ところが、今やネット世論においては公然と差別的な態度の方が主流、そこで今回の件のように「反ネトウヨ」こそが、反良識の逆張り根性が噛みつく対象となったのではないだろうか?
もし本当に今回の事件に日本のネット文化史における歴史的転換点などと言える要素があるとするなら、「皆が反差別の正義に目覚めた」なんて話ではなく、むしろ「一回転して『反ネトウヨ』が逆張り厨の対象になった」という点かも知れない? と感じている。
今回、左翼リベラル派がなんJ民を反差別の闘士のように持ちあげるのは、終戦直後に日本共産党アメリカの占領軍を「解放軍」だと思ったのを思い来させる。そんなもん、勝手に自分の願望を投影したに過ぎない。
そういや30年近くも前にも、よく似た図式を見たな。ゲイを題材にした映画に若い女性客が多数集まるんで、BLとか腐女子の存在を理解してない反差別の闘士が、左翼リベラル派の雑誌とかで「そら見ろ、若い女性の間ではこんなにも同性愛への理解が進んでるぞ」とドヤ顔してた図だ……1990年代初頭には、本当にそんな勘違いがあったんですよ。

無思想の一般人を惹きつけた者こそ勝ち

断っておくが、わたしはなんJ民を批判する気はない。むしろ、今回ヘイト動画潰しという意味では駄目な左翼よりよほど役に立ったのを、無思想な面白主義という動機まで含めて評価したいのだ。
かつて2012年には「李田所事件」というのがあった(詳細1詳細2)。
このときのネット民の反応の多くは「ネトウヨ淫夢厨に釣られてるw あーあバカだなwww」といったものだったろう。
悲喜劇的だったのは、引っかかった人たちに「李田所」の正体を知るや、「このデマを流したのは中核派だ」とか言い出す者がいたことだ、この世には自分らと敵(反日左翼)の2種類だけしか人間がいないと思い込む発想!
いやいや、世の中の大多数は、右翼でも左翼でもない、自分の快楽原則に沿うかが判断基準の一般人なんだよ。
この李田所デマにしても、今回の春のBAN祭りにしても大真面目な愛国者の皆様は、左翼でも在日でもない無思想の面白主義に足元をすくわれたのだ。
わたしは李田所事件のときの淫夢厨や、今回のなんJ民のような無節操こそ、単純な左右対立図式を相対化して解体するものとして歓迎する。
左翼リベラル派が大真面目にネトウヨを批判したって、それを読んでくれるのは元からの左派だけだ。ところが、淫夢厨は明確な思想なんてない一般人多数に「ネトウヨはバカ」というイメージを広めるのに大成功した。こっちの方がずっと効果は高いだろう。
無論、淫夢厨やなんJ民は、状況次第では左翼リベラル派もおちょくりの対象にするだろう。別にそれで大いに結構だ。

右派と左派の非対称性

さて、BAN祭りで痛い目にあった右派の間では「同じように左翼の動画を通報して削除しまくれ!」という声も挙がっているが、左派陣営からは違法な動画が大して出てこなかったらしい。これはなぜだろうか?
左翼の方が倫理観が高いとか阿呆なことを言う気はない。
ここで右翼と左翼の非対称性が問題になる。
以前も述べたが、左翼はもっぱら思想の中身という意志的な属性に依拠し、右翼はもっぱら人種、民族、国籍といった先天的な属性に依拠する。
そう、右派は自分の敵への批判を個人の主張への批判ではなく、やたらと人種、民族、国籍全体の問題にしたがる。
「○○は在日→だから悪」「○○人は日本人より下等」式の主張は、民族や国籍という大きな属性の問題に話をすり替えているだけで、相手の主張の中身に対する正当な批判にはなり得ないから、不当な差別と見なされるのだ。
恐らく、今回のBAN祭りに憤った右派には、「なんJ民は在日」と言ってやれば論破したことになると思っている者も少なくないだろうが、そんなものは「お前の母ちゃんデベソ」レベルの罵倒にしかならない。
だから、ここで右派のyoutuberに、削除対象にならない保守動画の作り方のヒントをアドバイスしてやると、「日本の左派人士や、中国政府、韓国政府、北朝鮮政府の『主張の中身、行動の中身だけ』を批判しろ」ということである。「理路整然とした保守」というのはそういうもののはずだ。
まあでも、人種民族国籍とかいった属性だけで自分が優位と思えるのが右派思想の魅力なんだから、それを押し殺すのに乗り気はしないだろうね……。

追記:ヘイト動画削除は資本主義の論理

そういえば、初歩的問題すぎて書かなかったが、ヘイト動画BANの妥当性自体について。
今回の件を「不当な言論弾圧だ!!」と怒る右派は多い。また、ネトウヨ思想に共感するわけではないが、とにかくネット言論の自由を尊重する立場から動画BANに懸念を示す者も一定数いる。
しかし、この手の人たちはyoutubeを、誰もが自由に使えるその辺の道路のような公共物とでも思っているのだろうか? youtubeGoogleという「私企業」が経営する媒体だ。youtubeは公共の道路ではなく、私有地を人に貸しているだけなのである。
そして、Googleがヘイト動画はNGと判断するようになったのは、動画の広告主がヘイト思想の賛同者と見なされるのを忌避するようになったからだ。
つまり、Googleは純粋に広告主のイメージを守らないと自社の利益が損なわれるという経営判断で、ヘイト動画をBANするようになったのである。
youtubeのヘイト動画削除はいっさい左翼思想ではない。むしろ資本主義の論理だ。
右派には資本主義を批判する国家社会主義者もいるが、今の日本の真面目な愛国者様の大多数は新自由主義を肯定してらっしゃるように見受けられる。だったら、自由競争原理に即した切り捨ては当然の正義ではないですか。
youtubeGoogleの私有地という基本中の基本を理解せず、「言論の自由ガー」とか言ってる人たちは、ぜひとも自分らの力で、ヘイト動画も含めてどんな言論もOKの動画投稿プラットフォームを構築してください。ただし、その動画サイトがなんJ民や淫夢厨に汚される可能性も充分ありますが……。