連載開始の告知
すでに誰が見ているかわからないブログだが、一応告知。
リアルサウンドブックにて「戦後サブカルチャー偉人たちの1945年」の連載を開始。
https://realsound.jp/book/2025/08/post-2086627.html
戦後80年の8月を通じて、昭和中期から平成までの映画、漫画、文学、芸能ほかサブカルチャーを担った文化人たちの戦争体験を記していく。
小説『火垂るの墓』、小説『麻雀放浪記』、小説『日本沈没』、映画『ゴジラ』、映画『仁義なき戦い』、漫画『アンパンマン』、漫画『墓場鬼太郎』、漫画『空手バカ一代』、アニメ『宇宙戦艦ヤマト』、アニメ『君たちはどう生きるか』……今日まで広く愛されるコンテンツに、作者やスタッフの戦争体験が投影された作品は数限りない。
とはいえ、「戦争体験」といっても多様だ。軍人でも将校と末端の兵卒では立場が大きく異なる。戦時下にも現代と変わらない感覚だった人もいる。ある意味では戦争が成長や栄達の機会になった人もいる。戦争の被害者も、加害者としての罪悪感を抱えた人もいる。戦後になってから敗戦の影響を受けた者もいる。
本企画は数年前に思い付き、本年やっと執筆に着手した。今回軒先を貸してくださったリアルサウンドブック様での公開はその片鱗のつもりで、最終的に100人ぐらいの人物を取り上げ、何らかの形にしたいと考えている。
ところが、50人分ぐらい書いたところで、6月に中川右介氏の力作『昭和20年8月15日 文化人たちは玉音放送をどう聞いたか』が発売された。
https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000887442025.html
何たることか。エジソンとまったく同時期にグラハム・ベルも電話の研究をしていた話のようだ。『昭和20年8月15日 文化人たちは玉音放送をどう聞いたか』の網羅性はすばらしく、取りあげている人物も当方が考えた人選とけっこう重複している。ただ、同書は「昭和20年8月15日」に特化しているけれど、「いや、8月15日に至るまでの日々と、その後をどう生きたかが面白いんだよ」という人物も多い。たとえば……
『七人の侍』の黒澤明は、勤労動員の女学生を描いた国策映画『一番美しく』を撮影し、出演者に本当に女子工員と同じ生活をさせて迫真の映像を作り、主演女優と結婚した。
『カムイ伝』の白土三平は、プロレタリア画家の息子だったので疎開先で父の素性を必死に隠し、山奥をかけめぐって食料を調達した、後年に白土が描いた忍者漫画のようだ。
『黒魔術の手帖』の澁澤龍彦は、戦時中こっそり学友と陸軍航空隊の倉庫に忍び込んで戦闘機を見物し、終戦直後、軍の倉庫から記念品としてピストルを盗み出した。
『寺内貫太郎一家』の向田邦子は、東京大空襲の翌日、普段きびしかった父がめずらしく家族に優しい態度を示した”最後の昼餐”を、一番心に残る食事だと述べる。
『空手バカ一代』の主人公である大山倍達(崔永宜)は、朝鮮に生まれ、戦前は石原莞爾がつくった東亜連盟に参加し、戦後は韓国民団と朝鮮総連の抗争で鉄拳を振るった。
こういうデティールを総合的に見てゆけば――
「戦前戦中はみんな軍国主義一色の暗黒時代だった」
「戦前戦中はみんな教育勅語のおかげで道徳的だった」
といった先入観がどちらも偏った見方だとわかる。
そんな戦争体験記シリーズ、8月1日から8月29日まで全5回の予定で、リアルサウンドブック読者の皆様のよい暇つぶしになれば幸い。