■2025年最後の挨拶とか年間ベストとか
多忙のためほとんど更新しないブログであるが、こうして記しておかないと自分でも一年を振り返る機会がないので、年末だけは書くことが義務化してる。
また例によって本年の収穫物(印象に残ったトピック)だが、完全に新旧ごちゃまぜだ。
1.米不足
2.映画『宝島』
3.小説『粒と棘』
4.ルポ『酒を主食とする人々』
5.評伝『夕やけを見ていた男』
6.漫画『天上の虹』
7.ドラマ『ばけばけ』
8.映画『東離劍遊紀 最終章』
9.「日本の巨大ロボット群像」展(池袋サンシャインシティ)
10.「正倉院 THE SHOW」展(上野の森美術館)
列外.『機動戦士GundamGQuuuuuuX』
■1.米不足
昨今これだけITだAIと言われながら、そんなもん首から下の肉体を成立させる食い物あっての話という、人間にとって基本中の基本をよーく実感させてくれた事件(当方はブランド名がない5kg3500円ぐらいの混合米ばかり食うようになった)。今や皆が漫画もアニメもゲームもパッケージソフトを買わずスマホで消費するようになり、在庫リスクという観点では手で触れる商品の衰退は必然とはいえ、食い物でこれは絶対に不可能! そして米は収穫まで必ず1年かかるし、人間にはコントロールできない自然環境の都合によって、収穫量の正確な予想もできない。この現実の前にはどの政党も勝てず、トランプもイーロンも助けてくれないし、ITもAIも吹き飛ぶ。
■2.映画『宝島』監督:大友啓史
8月25日のエントリに記載(https://gaikichi.hatenablog.com/archive/2025/08/25)
■3.小説『粒と棘』新野剛志
「リアルサウンドブック」に寄稿(https://realsound.jp/book/2025/09/post-2146750.html)
■4.ルポ『酒を主食とする人々』高野秀行(https://note.com/honnozasshi/n/n08040528ce6d)
高野秀行の本に外れはない。エチオピア南部を取材した本書には、もし高野ではない別の人物だったら気づかないであろう視点が満載だ。
アフリカでは四角い住居が近代の象徴、建築の手間が少ない円筒形の家こそが本来の姿(66p)。地酒の風味がミャンマーのワ州でつくったブライコーにそっくりだという、遠隔地なのに似た物ができる文化収斂の実例だ(91p)。デラシャの住民は都会人を前にすると、地元のデラシャ語ではなくエチオピアの標準語にあたるアムハラ語で話そうとする。高野に言わせると少数民族「あるある」現象らしく、クルド人もトルコ語話者の前ではトルコ語で喋ろうとする(195p)。古い文化や伝統に価値を見出すのは最初は外国人やよそ者、続いて自国内のインテリ階層、これは日本の明治期における浮世絵の再評価と同じ。高野は、地元の伝統文化を外国人向けの観光資源にしたい現地のインテリの思惑で、やらせ演出に巻き込まれたという(268p)。
■5.評伝『夕やけを見ていた男』 斎藤貴男(https://www.amazon.co.jp/dp/416744304X)
本年は戦後の文学、漫画、映画、TV関係者等々の伝記を複数読んだが、そのなかでも興味深かったのがこの梶原一騎の一代記。今さら気づいたが、梶原は中学生にあたる時期を矯正施設で過ごし、まともに学校に通っていない。このためか、『あしたのジョー』『タイガーマスク』ほか梶原原作のスポーツ漫画の多くは主人公がプロ選手で、あまり「学校」が舞台にならない。だが、1970年代後半以降の少年スポーツ漫画は、高校野球のような「部活動」が基本だ。通説ではよく、1980年代に入りラブコメブームで梶原一騎は時代遅れになったと言われるけれど、本当に梶原一騎を殺したのは『うる星やつら』ではなく、『ドカベン』だったのではないか?
■6.『天上の虹』里中満智子(https://www.kodansha.co.jp/titles/1000002232)
仕事で『日本書紀』の終盤について調べたのを機会に初めて通読。皇族間では近親婚も一夫多妻も普通だった当時、現代と恋愛観は大きく異なるだろうが、それでも『万葉集』には額田王、天武天皇ら数々の皇族が残した恋の歌がいくつもあるので、そこから本作のような歴史ラブロマンスもつくれる。意中の相手になかなか会えず和歌を送って返答を待つのはSNS恋愛みたいではないか。
壬申の乱で負けてしまった大友皇子(弘文天皇)、早世した草壁皇子など、『日本書紀』を読んだだけではイマイチ人物像がわからなかいキャラの描写に「こういう解釈ができるのか」と舌を巻く。大津皇子が朝廷の支配に服しない山の民と交流していたという設定は、網野善彦みたいではないか。若い頃は父親(中大兄皇子=天智天皇)に反発していた主人公の讃良(持統天皇)が、即位後、いかに権威を演じるかがテーマになるのは納得。でも、男の子としてはこんな母親がいたら本当にしんどそう…。
本書における『古事記』『日本書紀』の編纂の過程は作者の想像だが、それでも「藤原不比等らは大陸の文献に通じていたのだから、『魏志』の邪馬台国と卑弥呼についての記述(東夷伝倭人条)を読んでいた筈だが、なぜそれを記さなかったのか?」の背景は妙な説得力があって興味深い。
■7.『ばけばけ』脚本:ふじきみつ彦(https://www.nhk.jp/g/ts/662ZX5J3WG/)
某所で知人が指摘していたが、本作は負け組視点の歴史観が前提になっている。第1話の冒頭で語られる「耳なし芳一」は平家の幽霊の話、物語の舞台である松江は古代に大和によって征服された出雲の地、ヒロインのトキは明治維新後の没落士族、ラフカディオ・ハーンをモデルとするヘブン先生は英国のマイノリティであるアイルランド系で、キリスト教に滅ぼされた多神教が栄えていたギリシアの出身だ。本年前期のNHK朝ドラマだった『あんぱん』は、やなせたかしをモデルとする主人公が後半生に成功を収めるのが最初からわかってるが、本作は逆に、ヘブン先生が東京帝国大学講師の座を夏目漱石に譲り、さびしい晩年を送ることが予定されている…。
劇中、明治維新後もちょんまげを結ってるトキのじいさんや、本来の実家だった雨清水家の没落後の姿が痛々しいのに笑えない。もし、「民主主義なんてもう時代遅れ、これからはトランプのアメリカやプーチンのロシアや習近平の中国みたいな強権体制こそが時代の最先端(ドヤ顔)」などと言われて、自分はすんなり新時代の価値観に合わせられるかといえば、彼らのように見苦しい旧守派の生き方を選んでしまいそうである。
■8.映画『東離劍遊紀 最終章』原作・脚本:虚淵玄(https://www.thunderboltfantasy.com/finale/)
10年間に渡り続いた武侠バトル人形劇が堂々の完結。例によって主要登場人物ワルばかりの痛快アクション。ラストで敵のボスが何の力もない一般人にされたうえで異世界に飛ばされてしまうのは、過去の虚淵玄作品で、『吸血殲鬼ヴェドゴニア』『魔法少女まどか☆マギカ』『仮面ライダー鎧武』と、いずれも「最後は主人公が人外の存在と化して親しい人々のもとを去る」という展開の皮肉なセルフパロディにも見える。あと、日本の実写ファンタジー作品は、衣装が適度に古びてたり汚れてたりせず、きれい過ぎるのが違和感の元凶だが、人形劇だとそれが気にならないことに今さら気づいた。
■9.「日本の巨大ロボット群像」池袋サンシャインシティ(https://artne.jp/giant_robots/)
まず最初が『鉄人28号』の展示、1976年に刊行された秋田書店漫画文庫版の表紙は、今見ても渋く大人っぽい雰囲気。『装甲騎兵ボトムズ』のスコープドッグと『メガゾーン23』のガーランドの実物大の壁画を見ると、全高3.8メートルでもけっこう大きく感じる。『マジンガーZ』をはじめ歴代の巨大ロボの内部図解の比較を見ると、骨や筋肉を感じさせる永野護のデザインがリアルに思える謎。最後の識者インタビューコーナーで、現実に巨大ロボ的なメカを開発している前田建設工業のエンジニアが、高度経済成長期には自家用車が急速に普及し、人が操縦するメカとその格納庫・修理工場が身近に感じられる存在になったと説明していたのには「なるほど!」と思った。
■10.「正倉院 THE SHOW」上野の森美術館(https://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=12292582)
話題になった香木の蘭奢待よりも、奈良の大仏の開眼供養に使われた筆の現物(すごく大きい)に驚く。改めて見ると、飛鳥・奈良時代の工芸品に描かれた象、サイ、ラクダなどの動物はかなり変で、サイは体表に鱗がある。当然ながら当時の日本人は現物を見たことないわけで、麒麟や鳳凰と同じ伝承上の神獣と同じカテゴリだったのだろうな。
■列外.『機動戦士GundamGQuuuuuuX』監督:鶴巻和哉(https://www.gundam.info/feature/gquuuuuux/)
ファーストガンダムを見てた老人でないと話についていけない不親切な設定と言われるけれど、江戸時代の歌舞伎も、観客はみんな『平家物語』や『源平盛衰記』は知ってて当然という世界観で、何の説明もなくいきなり源義経や平敦盛が出てくるのが多数。ガンダムも順調に歌舞伎や落語と化してる。同じ演目が別の演出家と役者によって何百回でも新解釈されて生き返るのが古典だ(なお、旧作のキャラや設定を使いつつ変奏なら、既に平成以降のウルトラマンや仮面ライダーもさんざんやってる)。
最初は「また女子高生が主人公かよ」と思ったが、すぐに学校が出てこなくなったのが興味深い。主人公のマチュは、本来なら進路を考えないといけないのに、「学校の外の世界」で出会った同年代の異性であるシュウジを追いかけてるうちに、ジオン関係者やら地球にいるララァほか、自分とまったく異なる社会的階層の人間(おもに歳上)に出会い、戸惑いつつ結果的に視野を広げていく……これ充分に王道の青春物じゃないか。
もともと富野由悠季のガンダムは、基本的に男の子の主人公が戦場で外の世界(大人)の象徴としてのヒロイン(大抵は敵陣営)に出会い、初恋は苦く終わることで一つ成長するお話。本作は主人公の性別を逆にして基本はちゃんと踏まえた終わり方だ。
これでもし男の子のシュウジの方が主人公だったら、最後は好きな女を大人の男(本作の場合はシャア)に取られる図式になってしまう。若い頃なら「こういうのが青春の苦みなんだなあ…」などと思うところだが、歳をとると逆に、大人の男が若者から女を奪う展開は「おっさんの願望乙」にしか見えず気恥ずかしい。
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余談ながら、ガイナックスの破産手続終了は本年の悲報(当方はかつて、ガイナックス広報から、報道関係者枠として劇場版『天元突破グレンラガン』試写会の招待状をもらったことがある)。庵野秀明がカラー公式サイトに記したコメントによれば、山賀博之が『王立宇宙軍』の続編的作品として用意していた『蒼きウル』の権利譲渡が最後まで揉めていたというのが痛ましい。山賀としてはこれだけは手放したくなかったけど、彼が持っていても死蔵確実だったのか…。経営者としての山賀はさんざん叩かれている、しかしながら、ガイナックスからは庵野、鶴巻和哉、樋口真嗣のほか、独立してTRIGGERを作った今石洋之らが育った。かつてアニメ会社虫プロの経営者としての手塚治虫はさんざん非難されたけれど、虫プロからは富野由悠季を筆頭に多くの才あるアニメ関係者が育った。長期的視野では、山賀博之もこれと同じように評価されるだろうか。
■回顧と展望
これまた例によって、本年やった仕事の一部。
『ビジュアル版 昭和100年 激動の日本史』(https://www.amazon.co.jp/dp/4299061063)
またも監修は佐藤優。当方は終戦後の昭和20年から、自分が生まれた昭和45年(1970年)までを担当。ビキニ水爆実験の昭和29年に映画『ゴジラ』が公開、東京タワー完成の昭和33年に『月光仮面』が放送開始、黒部第四ダムが完成した昭和38年に『鉄腕アトム』と『鉄人28号』がアニメ化、同時期のヒーローは長嶋茂雄に王貞治――等々といったネタを記述。
『いまこそ知りたい乃木希典と旅順攻略戦』(https://tkj.jp/book/?cd=TD063939)
2025年は、大東亜戦争終結80周年、ベトナム戦争終結50周年であると同時に、日露戦争終結120周年だった。当方は旅順戦の開始から終結までの章を担当。戦前には過度に軍神と持ち上げられ、その反動で司馬遼太郎の『坂の上の雲』では無能な愚将扱いされた乃木大将の実像に迫る。
『くらべてよくわかる古事記と日本書紀の本』(https://one-publishing.co.jp/books/9784651205397/)
2019年に学研から刊行した『図説 古事記と日本書紀』の増補リメイク版。当方は日本書紀の後半の章で、仁徳天皇以降のあまり語られないエピソードを加筆。『日本書紀』には、当時の皇族や有力者による反乱容疑の冤罪や裏切りの内幕も堂々と書かれていることが多く、古代の人は妙に正直だ。
『スッと頭に入るゴッホの世界』(https://sp-mapple.jp/post-9784398144850/)
ゴッホの生涯と『ひまわり』の連作や『糸杉』、歌川広重の模写ほか主要な作品50枚を解説。生前ずっと絵が売れず弟のテオに頼りきりだったゴッホは、貧困のためモデルも容易に雇えなかったので自画像がやたら多く、ミレーやレンブラントのサンプリングやリミックスも大量に描いた。それでも37歳で死ぬまでに残した絵画は、油絵だけで約800点、素描も含めれば2000点はある。文化資本とは何なのか? という気になる。
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原稿料収入だけで生活するようになったのが2005年なので、本年でそれから20年となる。さすがに人生の残り時間を考えねばならん歳だが、当面死ぬ気はない。歴史の語り部の末裔を称する以上、不完全ながらも自分の世代なりの論点を語っていきたいつもりだ。リアルサウンドブックに連載した「戦後サブカルチャー偉人たちの1945年」(https://realsound.jp/book/2025/08/post-2086627.html)を増補して単行本化を考えているものの、先の道のりは遠い。零細ライターながらも、2026年もそれなりに気合を入れるべき仕事の予定はある、喜ぶべきか。
それでは皆様よいお年を。