電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

3.『シャルリとは誰か?』

エマニュエル・トッド:著(isbn:4166610546
この人、いっけんリベラル派のようでドイツ人には口汚いところとか微妙に性格が悪いが、着眼点はあなどれない。
伝統的宗教(カトリック)が排外主義の温床ではなく、むしろ「ヨーロッパ人でもアフリカ人でも同じカトリック信徒」という国際的普遍性があり、伝統的宗教が衰退すると民族主義がその代替物となって排外主義が広まる――という指摘は鋭い。
あと、各国の文化的価値観を家族制度(相続制度)の伝統から分析した部分も奥が深い。イギリス、アメリカは兄弟間で相続が平等なので組織運営も平等主義的、ドイツや日本や韓国は長子優遇の家父長主義だから平等主義が根づきにくいとの指摘。
(そう考えると、日本では地域によっては兄弟が上から順に親元を離れる末子相続もあったのを政策的に長子相続に一本化した明治期以降の伝統って、本当に不自然で作為的)
ロシアは父の権威が強いが兄弟姉妹関係は平等(分割相続できる土地が広いからか?)という説明は、『カラマーゾフの兄弟』を念頭に置くとすごく納得できる。あと「強権の下での平等」ってソ連みたいな社会主義じゃん。