電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

本邦初の怪企画『セカウヨ』

というわけで、当方の企画立案で年頭から進めていた、グループSKIT編著『世界の右翼』(isbn:4800271878)が刊行。内容は以下のような感じ。
○序章 世界の右翼とは何か
・右翼の歴史 フランス革命から現代まで
ファシズムとは右翼なのか?
・出会い系まで活用? ネットメディアと右派の関係
などなど…
○第1章 アメリカの右翼
トランプ大統領の過激な発言はすべて「ジャイアン理論」だ!
・じつは共和党っぽくない トランプが主流派に嫌われる理由
・日本の右派に人気の「テキサス親父」もアメリカではただの一般人?
・白人至上主義団体「KKK」の首領の称号は「皇帝の魔術師」
アメリカでも不良の暴走族は右翼ファッションが大好き?
などなど…
○第2章 ヨーロッパの右翼
・ヨーロッパの右派とロシアが親密なのは「敵の敵は味方」だから?
イスラム教徒だけではない 東欧系白人も差別する右派
・「国境を地雷でうめつくせ!」 ギリシャ右派の過激な主張
・フランス人の黒歴史 ナチスに協力したファシストたち
などなど…
○第3章 アジアの右翼
・中国が反日になったのは最近の話? 愛国教育で右傾化した漢民族
・中国人を敵視するモンゴル極右「ダヤル・モンゴル運動」って何?
・インドのヒンドゥー教右派はイスラム排斥を唱えるトランプの大ファン
などなど…
○第4章 日本の右翼
改憲を猛プッシュの「神道政治連盟」は日本の宗教右派
・日本の右翼に在日韓国人がいるワケ 意外に多い「マイノリティの右派」
ネット右翼は"Net right"? 日本の右派は海外でどう報道されている?
などなど…
ただし、今回は「世界の」と言いつつ、中南米やアフリカ大陸などは触れていない。1990年代までなら、たとえばコロンビア内戦では極左ゲリラと敵対する右派民兵のAUCなどが有力だったが、そのへんも今では目立たなくなってしまった。アフリカでは多くの政党や反政府が民族主義系なので、右翼としてカウントしているときりがなくなる。イスラム過激派を右翼と見なすかについても言及したが、本書では大きくは扱わなかった。

中二病の結社から怪貴族まで……大人の怪獣図鑑

本書の執筆にあたって参考文献を探そうとしたら、アメリカの右派、ヨーロッパの右派などに触れた書籍はいくつも存在するが、少なくとも2017年6月までの現在、Amazonに「世界の右翼」というタイトルの本は他にない。つまり本書は本邦初の「世界の右翼」本である。すげえぞ、これは怪挙w
思わず快挙ではなく怪挙と書いたが、実際に執筆しながら「これ、怪獣図鑑だよな」と思った側面も少なくない。アメリカ編で取り上げたKKKは、「見えざる南部帝国」を自称、幹部を「騎士」「大ドラゴン」などと呼ぶ……中二病センスかよ! ギリシャの右派政党「黄金の夜明け」なんて実在の秘密結社みたいな党名だし、英国にはイギリス・ファシスト党を結成してヒトラーを結婚式に招いたモズレー准男爵なんて怪紳士もいる。
真面目な話もすると、EU圏各国で右派が台頭するなか、スペインだけは新興の極右政党がないというのは興味深い。同国は1970年代までフランコ将軍のファシズム政権だったので、今さら極右政党が出てきても国民には「新味がない」のだ。逆に言えば、フランスの国民戦線などは、実際に政権を運営して失敗した経験がまだないから期待されているのである。
わりと実証的な記事になった項目もある、一例を挙げれば「日本でも欧米のような移民と排外主義の衝突は起きるか?」という問題。
日本でも排外主義の団体は、「移民の増加で治安も失業も悪化する」と言う。ところが、現在の日本ではブラック雇用の外国人技能実習生をカウントすれば移民労働者が100万人もいるのに、警視庁の『警察白書』の過去の版を見ていくと、日本の人口10万人あたりの刑法犯数は、2001年には2149件、06年には1605件、11年には1176件、15年には865件と一貫して減少が続き、外国人の流入とともに犯罪が増えた兆候はまったくない。
失業率も、リーマンショック直後の2009年前後を例外とすれば、21世紀に入って以降は低下を続けている。これで移民の害を訴えられても、ぴんと来ない人のほうが多いのは仕方ないのではないか。

「反体制ほど勤皇」は日本の伝統

なお、本書では日本の右派と左派の定義の軸を「戦後憲法を認めるか否か」に置いた、だから改憲政党である自民党は右派としている。本来なら日本の右派と左派の軸は天皇制を認めるか否かだが、現状では今上天皇平和憲法遵守の姿勢だからだ。無論「現状では」の話で、自民党改憲案が実現した場合、その後の時代には今の安倍政権が「中道」扱いになる。右派と左派の定義はフランス革命以来、時代状況によって変化してきた。
昨今、リベラル派が護憲主義者の天皇を錦の御旗にするのはおかしいと怒る人は少なくない。でもさ、「左翼なら反天皇じゃなきゃいけない」なんて決まりはあんの? あったとしても拘束力はあるのかw 以前にやった『「右翼」と「左翼」の謎がよくわかる本』(isbn:4569819370)でも言及したが、大日本愛国党山口二矢に暗殺された日本社会党浅沼稲次郎委員長は、じつは熱烈な天皇崇拝者だった。
日本では「反体制ほど勤皇」という事例はよくある話だ。古くは、後醍醐天皇を奉じて鎌倉幕府の打倒をはかった楠木正成、幕末期の長州藩などの尊皇攘夷志士も当時の反体制ではないか! 515事件、226事件を起こした青年将校らも同様だ。戦前にもリベラル派が「護憲運動」というものを起こしたが、これは「明治天皇が定めた憲法」を藩閥や軍の独裁を批判する論拠にしたものだった。
反体制の人間ほど、地位向上や自分の正当性を訴えるため強い権威に結びつこうとする例は少なくない。今回の『世界の右翼』の日本編では、既存の右翼団体に在日がいる理由、すなわち「街宣右翼は在日の自作自演説」の底の浅さについても言及している。アメリカでは、ユダヤ系や黒人、白人のなかではマイノリティのアイリッシュ系などの右派も、ゲイの右派もごろごろいる。

愛国者からはブサヨと呼ばれ、リベラル派からはウヨと呼ばれるのを希望する

以前も述べたが、右翼は意志的な属性ではなく、先天的な属性に話を持ってゆきたがる。右派とは自分が持って生まれた陣営を肯定する、自分が属する国家、民族、人種などこそすぐれているという言説は人に優越感を与える、そこに右派の「魅力」がある。優越感はお金がかからない。
わたしはたまに現在の自民党支持者やネトウヨをバカにしたようなことを書くが、すると「在日発見!」とお約束のチョン呼ばわり受ける場合があり、けっこう不快だ。こう言うと、逆に反差別の左翼から「あなたが在日呼ばわりされて怒るのは、あなたにも差別意識があるからだ」などとドヤ顔されるのだが、この手の意見も不快だ。
要するに、わたしは主張の中身で評価して欲しい(悪い評価でも良い)のに、それをすっ飛ばして民族・国籍という生まれの問題にすり替えられるから、ネトウヨの言う「在日認定」は不快なのだ。
おそらく、彼らが自分たちに敵対的な意見の持ち主をみな在日とか帰化人と見なすのは、「同じ日本人に敵はいない」と思いたがっているからであろう。しかし、わたしはむしろ自分が「日本人成人男性」だからこそネトウヨが嫌いだ。
わたしはあえて自分の属する陣営"にも"批判的な目を向けられるのが「頭が良い」ことだと思ってる。だからどこでも「自分の陣営バンザイ一辺倒」は見ていて恥ずかしい、日本国内で蔓延する「日本スゴイ」ネタは、狭か九州ん中だけで博多ん者が王様気取りしよるごつ恥ずかしかばい(逆に、東京人が外から九州をバカにするなら断固反論するけどな)。
ただし、自分の属する陣営の批判"しか"しないのはまた別の意味で病気。要は現状の問題点に対するバランス感覚なのだ。だから、いつか世界各国で左派政党が優勢になったなら、今度は節操なくこれをネタにする『世界の左翼』という本の企画をやりますよw