電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

必要悪としての密室政治?

皆もう忘れかけているだろうが、わたしは昨年「イラク人質(俗称「三バカ」)事件」で一番得をしたのは、株式会社ウェディングであったのではないか? と思っている。昨年3月、件の人質事件が起きる前、ネット世論では、自社に関するGoogleの検索結果情報を自作自演の自画自賛で埋め尽くし、同社の手口を告発した「悪徳商法マニアックス」を潰そうとしたこの悪徳企業への、誰が言い出したともない自発的な草の根告発が盛り上がりかけていた。が、4月に入り、この草の根告発のエネルギーは、イラク人質自作自演疑惑の波にかき消された。ネット上での、誰が言い出したともない自発的な草の根告発とは諸刃の剣だな、と痛感させられた次第である。
そして今年、11月にふってわいた、姉歯設計事務所、悪徳マンション業者ヒューザー木村建設その他による耐震強度偽装問題で一番得をしたのは、JR西日本かも知れぬ。尼崎の脱線事故って何年前の話だっけ? って、今年だよ! みんなトコロテン式に入れ替わりで忘れてないか? どちらも大企業の安全管理のずさんさ、という同じ問題を反映した事件(こういうこと、高度経済成長期にもゴロゴロあったんじゃないかと思うけど)ではあるが。
一部で注目されているこのサイトによると、耐震強度偽装問題の真の最大の悪党は、各機関の民営自由化の名のもとにずさんな強度チェック制度を広めた国土交通省の偉いさんらしい(って、この話、どの程度まで本当かどうかは知らん)が、いまだマスコミ報道はそこまで踏み込んでない。肝心な部分はいつもブラックボックスだ。
が、そういうのって、ブラックボックスなのもしょうがねえのかなあ、と思うこともある。
わたしは本年のベストセラーとなった佐藤優の『国家の罠』は関心ありつつ、怠惰にしてまだ読んでないのだが、先日『週刊文春』に掲載された佐藤優鈴木宗男の外務省内幕暴露対談は非常に興味深かった。
いわく、外国に赴任する外務省の高級官僚というのは、相当の高給で、高額の外交機密費を使える、そこでそれを私用化する不届き者も少なくないというのだが、佐藤&鈴木によると、外交というのは、どうしても、能力のある外交官にワンマン的に任せるしかないものらしい。彼らは、自分らは北方領土返還などのためロシア官僚の懐に深く踏み込む努力をしてきたんだと自称する(って、この話、どの程度まで本当かどうかは知らん)。
どうも、特に、この両者が接してきたような、旧ソ連、東欧圏などは、いまだに共産政権崩壊後の混乱の余波で、軍閥政治がまかり通っている、だから、外交成果を引き出すには、どうしてもそういういかがわしいボスと一個人的に仲良くなるしかなく、その過程では、日本の一般国民の目から見れば、いかがわしい人脈関係、外交機密費の私用化と見えても仕方ないこともある、ということらしい。恐らく、田中角栄はそういうグレーゾ−ンを清濁併せ呑んできたが、外務官僚としての経歴があったわけではなく、国民の潔癖な世論に推された田中真紀子は、そこと摩擦したのではないだろうか。
以上はあくまで、佐藤&鈴木の主張への、わたしの個人的解釈ではあるが。
しかし実際、そもそも近代の前半まで、列強諸国の間で、外交とは多分に、王侯貴族の個々人同士の馴れ合い政治だった。先日、畏友にもらった『映像の20世紀』(10年前にやってたNHKの特番)のビデオを見返したら、第一次世界大戦では敵同士となったイギリス国王ジョージ五世とドイツ国王は、ともにヴィクトリア女王の孫で、ヴィクトリア女王の存命中はヨーロッパそのものを舞台に列強間の大戦争は起きなかったが、20世紀になってヴィクトリア女王の没後に第一次世界大戦が起きた、という説明がされてた。確かに、かつてはヨーロッパの王室は皆お互いに姻戚関係で、国益のため戦争が起きても、王侯貴族の馴れ合いで戦争が収まったりしたらしい。そういえば、一時ポル・ポト共産政権のために荒れまくったカンボジアの再統一をまとめたのは、結局シアヌーク殿下である。
戦後日本の建前上の平等主義は、こういう寡頭政治はとにかく良くないということにしてしまったが、本当に有能な人間が、結果として国民多数の幸福のため働いてくれるのなら、VIP同士の馴れ合いによる密室政治も必要悪かも知れない。しかし、その高級官僚やら高級外交官やらが、皆が皆、本当にそんな清廉の士とは限らない、というのが難しいところである。