電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

30代無職入墨有り妻子なし

90年代後半、ハッキリ言えばエヴァンゲリオン以降、内省的自己言及的衒学的なアニメや漫画やライトノベルはめっきり増えた。が、その多くは(俺も詳しく知らんが)『lain』でも『ほしのこえ』でも何でもいいんだが、作者はいい年した男であるというのに、とかく少女の話にするというのがお決まりであった。
以前も書いたがブレードランナー』の原作者で、日本ではオシャレなサイバーSF作家と思われているフィリップ・K・ディックの作品は、ことごとく「ダメな中年男」の自分探し小説である。わたしはこれは(ちっとも美しくないが)非常に正直で正しい姿勢だと思っている。
しかし、今の日本ではついぞそういうものは、つまり、中年男を主人公にして商業的に成立するファンタジーだのSFだのは成立せんのだろうか? と思っていたら、6ch土曜夕方6時の「旧ガンダムSEED枠」で放送の始まった『天保異聞・妖奇士』の主人公は39歳無職男という。やるぜ竹田青嗣もとい竹田逭滋プロデューサー、よくこんな企画を通したな。
もっとも、これは時代劇という建前上の枠組ゆえに可能な設定だろう、「39歳フリーター」では格好つかないが、「39歳浪人入墨者」ならかろうじて現実に対しワンクッションあるからな。
――だが、実際観はじめてみると、しょっぱなから、主人公が年下の若侍からいじられるだの、じつは主人公は自覚のないまま旧友をぬっ殺して自覚のないままその幽霊とつるんでいただのキツい展開連発、俺は皮肉な面白さを味わっているが、視聴者はつくんでしょうかね、これ?
あと、まったく余談だが、アステカ先住民の神ケツァルコアトルが「馬」に宿るというのは少ぉーしだけ頂けない。もともとアメリカ大陸には馬は居なかった。馬は白人が持ち込んだ動物で、インディアンが滅ぼされた理由の一つもそこにある。言うならばアメリカ先住民にとって馬とは敵侵略者の象徴のはずなのだから。近代以前、交通機動力である馬とはすなわち同時に強力な兵器だったのである。
もっとも、西部劇マニアの某氏に聞いた話よると、すぐに白人から乗馬の技術を身につけたインディアンもいたそうだが。