電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

トトロのいない日本、ヒルビリーの出るアメリカ

以前、ウェイン町山氏が書いていた話を、あえて思い切り曲解して尾ひれをつけて要約すると

アメリカの山奥にはヒルビリーという妖怪がいて、これに襲われるとそいつもヒルビリーになって人を襲う

ということになりそうである。襲われれるとそいつも同様の妖怪になって人を襲う、となると、なんだかまるで吸血鬼かゾンビかワイアール星人のようである(←注、わざと曲解を書いてます。怒るなよ)
まあしかし、日本で伝わっている鬼だの天狗だの河童だのといった人型妖怪の多くも、もとを正せば、山奥に住む未知の山人だの辺境の民を勝手に差別的視点で妖怪と見なしていたというのが小松和彦的には王道の解釈である。
だが、狭い日本では、明治以降の統一近代国家建設がもたらした土地開発によって妖怪の潜んでいそうな深い山や森も切り開かれ、未知の地域などほとんどなくなった。
しかし、アメリカは広い、西海岸と東海岸の沿岸都市部以外の地域には未だに広大な原生林などもある。ゆえに『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のようなホラーだって成立する。
そう考えれば冗談抜きに「妖怪ヒルビリー」というのは、民俗学的には現在進行形の山人譚といえないだろうか(←注、知ったかぶりですから本気にし過ぎないで下さい)
だがふと思ったが、今では中国の方こそ民俗学的に現在進行形の山人譚がありそうな気がする。何しろ市場開放経済は良いが都市部と内陸農村部の経済格差は深刻どころでなく、上海には日本のヒルズ族並みの金持ちがいる一方、田舎では小学校にも行けぬ子どもがいるという。
それこそ、上海のベンチャー経営者が田舎に旅行に行ったら、食人鬼と見まがうような山賊化した山人に襲われた、とかいう話があってもおかしくなさそうだ。
――なんだか不謹慎な話を書いているが、まあ、日本人はこういう話を冗談と思って笑えるが、それはたまたま国土も狭く、統一的な国土開発が短期間で済んだ幸運に無自覚なだけかも知れぬ。
とにかく、今の日本には鬼も天狗も河童もトトロもいない。それは、どこの田舎の国道沿いにもあるロードサイドのコンビニやファミレスと入れ替わりに姿を消したと思っておくべきなのだろう。