電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

2006年最後の挨拶とか年間ベストとか

と、いうわけで、畏友河田拓也&奈落一騎とライター集団「線引き屋」を名乗って以来、なんとなく恒例となっている、私的年間ベストの2006年度版(例によって最新モノとはほとんど関係なし)
昨年度は、仕事が雑誌『TONE』戦争特集から映画『男たちの大和』ムックまで「日本の戦争」というテーマで一貫してた側面が強く、それが反映された年間ベストでしたが、本年は散漫で小粒な印象となりました。

1.『最強伝説 黒沢』福本伸行小学館
とりあえず本年で全11巻完結なので。印象深かったのは、最後の展開での「勝ち負けに関係なく、戦おうという意志を持つこと自体に意義がある」というメッセージもさることながら、少年グループ対ホームレス集団の抗争に陥る前、黒沢がバットで殴り合った相手に「お前も痛い、俺も痛い」と語りかけ争いを避けようとする場面、だが、市民社会の側にいるつもりの少年グループは、ホームレス狩りを「良いこと」と思い込んでいるゆえ争いは避けられなくなってしまった、という展開だろうか。
やはり福本は、生存闘争は相互的なものだとよく自覚している。人を殴れば自分の拳も汚れ痛むのだ。ネット時代の人間が忘れていることをよく示してくれたと思う。
……しかし、現実の世界は、目の前の敵とはとにかく戦えば良い、という簡単な話でないなく、嫌な奴とも共存共栄しなけえばならないのが難しいところなのだが。

2.「戦時体制いまだ終わらず」野口悠紀雄(『週刊新潮』連載)
本当はこれを暫定1位にしようかと思ってたが、さすがに雑誌連載中の記事ではなあ…。しかし実際、本年度、一番注目して読み続けたものである。
戦前の満洲の計画的産業開発と戦時下の国家社会主義的な統制経済体制が、そのままGHQを巧みに騙して生き延び、戦後の復興のノウハウに応用され、現在の政治経済体制の基礎になっている……という話を、実に具体的な数字と人物エピソードでわかりやすく概説してくれている。
これを読んでようやく今さら池田隼人とか岸信介とか官僚出身の政治家が何をやってきたのかがわかった気になれた。

3.『評伝 赤尾敏猪野健治(オール出版)
帝国議会で堂々と東條英機を批判し、敬老精神のない若手右翼の前で共産党野坂参三を擁護し、文鮮明に「キリストはそんな金ぴか指輪はしない!」と説教し、企業からの寄付金は一切取らず、若い支持者ともにカレーライスを食う大日本愛国党総裁、赤尾敏
――政治思想的に共感するかとかはまったく別として、人間として、今はいない本物の一人であることだけは断言できる。

4.『戒厳令下チリ潜入記』ガルシア・マルケス編著(岩波新書
本年仕事で読んだ本の中では一番面白かった。俺が『パイナップルARMY』や『BANANA FISH』を娯楽作品として楽しんでいた80年代、南米はまだリアルな戦時下だった。
アメリカの支援を受けた反乱軍に対し自ら機関銃を手にして戦い顔を半分吹き飛ばされて死んだアジェンデは、チリの国民にとって、飽食日本のカルト教祖などとは違う「本物の信仰」の対象だったことがわかる。

5.『威風堂々うかれ昭和史』小松左京読売新聞社
小松左京の談話による自伝。小松の自伝には真面目な内容のものもあるが、こちらは与太話系である。が、それだけに「昭和の子供」の生の声が詰まっていたといえる。

6.『復讐するは我にあり』監督:今村昌平(松竹ホームビデオ)
「本当に殺したい奴殺してねえんかね?」
「そうかも知れん」
「意気地なしだね、あんた。そんじゃ死刑ずら」
ぶっ殺したいという思いを口にするだけで犯罪扱いの世こそ、むしろ死刑囚だらけの筈である。

7.『七人の侍』監督:黒澤明東宝VIDEO)
深夜アニメの『SAMURAI7』が、後半オリジナルの展開に入ってから「真にあくどいのは野武士より、自らの手は汚さず民を支配する者」という視点だけは良いが、話がちっとも面白くないので、予定通り放送終わるや見返した。
改めて深く痛感したのは、百姓たちの残酷さである。百姓が野武士をリンチしようとするのを志村喬は止めようとするが、野武士に家族を殺された婆が一人でナタを持ってヨロヨロ歩いてくると、もう誰も止めない。そりゃそうだ。
竹槍で野武士をぶっ殺す訓練は、この映画の公開時(1954年)のつい十年前に皆がやってたことだ、野武士ではなく米兵を殺すために。
野武士をブチ殺して平然と田植えする百姓達は、他ならぬ我々日本人の姿なのである。

8.『怪奇大作戦』再放送(東京MXTV
これと『西遊記』『西遊記II』の再放送が観られたというだけで、少なくとも石原慎太郎MXTVを開設したのは俺の役に立ったと大いに認める。

9.『無敵鋼人ダイターン3 DVD-BOX』(バンダイヴィジュアル)
破嵐万丈と27年ぶりに再会したと思ったら、鈴置洋孝氏が…佐々木守といい実相寺昭雄といい、今年もたくさん亡くなったなあ…

10.『シグルイ南條範夫山口貴由秋田書店
今さら1〜7巻を通読。戦のない平穏な江戸時代にこそ武士道が異常なまでにグロテスクに奇形進化した皮肉。だがこれもまた本質なのだろう。

さて、この場を借りて一言しておくと、わたしがはてなのブログなら更新してもmixiの日記はちっとも書かないのは、不特定多数の第三者に向けた言葉でなければならないという緊張感を失わないためであります。
不特定多数の第三者向けか、でなければ、はっきり相手を指定して言うか、でないと責任がハッキリしない文章になりかねないから難しい。

最終的には、なんでも直に会って話すのが一番良いんですけどね。

それでは皆様、よいお年を。