電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

夏の風物詩 日本の陸軍と海軍

毎年、8月の終戦記念日近くになると、テレビや雑誌は戦争特集が世に溢れる……で、わたしが友人らと一緒にやってるライター集団・グループSKITの編著『日本陸軍日本海軍の謎』(isbn:4569813437)が刊行。
全体の構成は以下のような感じ。
○序章 日本軍の謎(基本編)
・明治政府はなぜ陸軍より海軍重視だったのか?
226事件、515事件など軍人テロはなぜ多発した?
靖国神社は維新志士の慰霊施設だった?
などなど…
○第一章 日本陸軍の謎(陸軍の雑学、人物、兵器)
・士官と兵卒の給料はどれぐらい違ったのか?
インパール作戦はなぜ大失敗に終わったのか?
・日本の主力戦車九七式中戦車」が外国戦車より小さい理由
東條英機はなぜ「東條上等兵」と呼ばれたのか?
などなど…
○第二章 日本海軍の謎(海軍の雑学、人物、兵器)
日本海海戦は「丁字戦法」で勝ったのではなかった?
・士官の食事が水兵より豪華だった理由とは?
・世界初の空母と戦前の世界最大の空母は日本製?
秋山真之の『坂の上の雲』に書いてない後半生
などなど…
わたしは「序章 日本軍の謎」の全項目のほか、陸軍と海軍の「用語集」、コラムの陸軍と海軍がわかる映画、小説、漫画などを担当。じつは今回、自分が執筆してない項目もほぼ9割わたしが案を出しました(案だけ)。
昨今は『ガールズ&パンツァー』とコラボした自衛隊DVDがバカ売れするご時世だ。そこで「書名は『けいおん!』とか『ゆるゆり♪』とか『みなみけ』とかの萌えアニメみたいに、ひらがな四文字で『りくかい』にしようぜ」と言ってみたが、大却下された(←当然だ!!)

帝国陸海軍の将兵は70年前のわたしたちだ

ハッキリ言って、日本の陸軍と海軍に関する本なら山ほど出ている。
本書は基本を踏まえつつ、あえて「戦前の日本に『空軍』がなかった理由」「陸軍の軍服はなぜカーキ色か?」など、初歩的すぎてあまり説明されていない点をとりあげた。また、「兵隊さんのお守り」「陸軍の重鎮・大山巌が頭が上がらなかった人物」などなど、個々の将兵の人間的な顔が見えることを目指した。
そして、できればここを読者に感じ取ってもらえればなあ……と意識したのは、戦前と戦後の断絶の反面にある連続性だ。これは功罪の両面にいえる。
日本は戦争に敗れたが、陸海軍の元将兵や技術者は戦後の復興に大きく寄与した。ソニーの創業者・盛田昭夫井深大は元海軍の技術士官だ。廉価なプレハブ工法を広めた大和ハウス工業の創業者・石橋信夫陸軍士官学校卒である。
風立ちぬ』のあのラストシーンのあと、堀越二郎やその同業者たちは、ある者は東海道新幹線の開発に関わり、ある者は国民車スバル360の開発に関わり、ある者は国産旅客機YS-11の開発に携わった。無名の兵士たちにも、軍隊で自動車の運転やら土木技術などを、また規律や団結心を身につけた人は多い。
しかし一方、陸軍と海軍の不仲のような官庁の派閥争い、インパール作戦のように末端に無理を押しつける組織体質は、現代にも引き継がれている。
元陸軍大尉の佐々木二郎(226事件を起こした磯部浅一主計大尉と同期)は、元海軍主計大尉の村上一郎との対談で、次のように語っている。

「無理は陸軍が多いですわね。海軍は機械でいくから、陸軍は人間だから。海軍では三日分の燃料で五日行けなんて言ったって無理で、誰もそんなこと命令しないですよ。陸軍では二日分の食料渡して、五日でも六日でも行って来いなんていう……人間というものは非常に伸縮度が大きいものですから。」
ドキュメント日本人(4) 支配者とその影』(学芸書林)1969年刊行

まるで、現代のブラック企業と変わりないじゃないか!!
以上の佐々木二郎×村上一郎対談は本書にも引用したが、この発言を教えてくださったのは、民俗学者大月隆寛氏である。
本書の「おわりに」では、今や戦後70年が過ぎようとしているが、70〜80年とは人の一生に近い年月であり、それだけの時間が過ぎると、前の時代を知る人間は死に絶え、時代の教訓は忘れられるという点に言及した。この視点は、かつて自分が属していた以費塾の先輩・高井守(汎田礼)氏から学んだことだ。
この場を借りて、大月隆寛氏と高井守氏にはお礼申し上げる。ありがとうございました。