電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

地方の男

最近NHKドラマ『あまちゃん』のミズタク(松田龍平)が一部で非常に人気らしい。
劇中では前半、かなりデフォルメ&美化されてるとはいえ、地方で地道に漁業や鉄道や潜水土木に従事する人間を描いていた中、ミズタクだけは嘘くさい作り物感があった。大体、芸能マネージャーといえば営業回りだの雑用だので超多忙だろうに、金の卵のアイドル候補を捕まえるためとはいえ、一地方に半年以上も張りつくとかありえるのか? と。
だが「東京編」に入ると、じつは芸能事務所では社長にもなかなか話を聞いてもらえず、どうも下っ端的身分らしいと判明、しかし意外なまでの責任感の強さと不器用さの持ち主とわかってくる……そら萌える人も出てくるだろうな。
だが、わたしは『あまちゃん』の男キャラでは俄然、種市先輩に注目する(ま、福士君は仮面ライダーフォーゼの弦ちゃんだからそんだけで身びいきってのもあるけど)。
東北の北三陸じゃあんなに主人公のアキにはカッコ良く見えてた種市先輩が、東京じゃ見事に男を下げてたのが痛烈。
種市先輩のカッコ良さとは、地方で潜水土木なんて第二次産業的な技能職が実体的に生きてる世界だから成立するカッコ良さだったのではないか。ところが、人も物も大量に消費される第三次産業都市の東京では、会社の都合で「技能に裏づけられた自分」を殺され、仕事の現場も差し換え自在のパーツにされる……そりゃ凹むわな。
わたし自身の地方在住当時をふり返ると種市先輩のような人物と親しくはなかった。でも、将来は家業を継ぐと言ってた先輩や、クラスメートで後輩に慕われてた運動部の部長とか、あんな雰囲気だった気がする。そして、そんな彼らが、そのカッコ良さを成立させる地元環境の解体によって寄る辺なくなっている可能性も、何となく想像できてしまう。
ついでに言えば『あまちゃん』の男キャラでは大吉さんのウザさが半端ない。何が困るって、まったく悪意や私心の自覚がないまま、二言目には「北三陸のため」と言う点だ。
話の発端で春子を騙して故郷に呼びよせる所からして公私混同だが、これはまだいい。黙ってろと言われたアキの失恋をCCメールで関係者全員に知らせるわ、ユイの家出阻止のためだけに国道まで封鎖するわ、それらが全部「地元のため」で正当化される。
無論、こうした大吉の行動は半ばギャグとして描かれているが(杉本哲夫の目を剥いた演技が絶妙)、ドイツ軍将兵の四分類なら、ほぼ「無能な働き者」じゃねえか!
彼は平和な日本の地方の駅長だから良いものの、うっかりスターリン時代の旧ソ連ナチス時代のドイツで地方の警察署長とかになっていたらマジで怖い。「地元の平和のため」と称して、自分と相容れない人間を片っ端から強制収容所送りにするのではないか?
……たかが大吉さん相手に何言ってるんだ? と突っ込まれそうだが、実際、地方ではこういう、当人には悪意や私心がないまま、何か勘違いした方向に全力で努力する公務員によって、無駄な公共投資が起きてるんじゃねえのかなあ……という嫌なリアルさがある。