電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

列外『あまちゃん』

順位とかつけたくない、毎日の食後の一服のように楽しんだ作品。
もともと自分は決して熱心な朝ドラファンでもクドカンファンでもなかったが、畏友中川大地氏が毎日つけてた各話解説ツイッターに影響されて結局全話視聴。
現代東京のJKが田舎の年寄りや海女の世界にすぐになじんでしまう設定自体は当然一種のファンタジーだが、地方人のしょーもなさや家族の欺瞞性は適度にリアルで溜飲が下がる。
大吉や菅原ら観光協会の大人連中がなじみのスナックでグダグダと語り合い、ヒロシら数少ない若者をいじり倒したり、男女が簡単にくっついたり別れたり、ユイの母が家出しちゃったり……だが、それらを本気で醜く描いて糾弾するのでもなく、トータルで「まあ世の中そんなもんさ」と、人間のしょーもなさを愛せる気分にさせてくれる演出が絶妙。
そして、そんなしょーもない人々や、アイドルに憧れちゃうような普通の子の主人公の視点で、終盤は震災と復興に迫った点が重要。逆に最初から「震災復興」がテーマのドラマだったら、あれだけ感情移入も盛り上がりもない。たとえば大吉は町おこしと自分の感情を強引に結びつける公私混同野郎だからこそ、北鉄の復旧にも全身全霊を傾けていた筈だ。
さらに、震災の物理的被害よりも、非被災地の東京の奇妙な精神的鬱屈やユイのように萎縮してやる気がなくなった心理のやこしさに迫った点が興味深い。これは宮藤官九郎自身の正直な実感的本音だったろう。クドカンの故郷・宮城県栗原市震度7を記録。家屋50棟ほどが全壊。死者ゼロながら風景が変わった衝撃は大きかったはず。しかしクドカン自身は東京で仕事する立場という複雑な気分はどんなものだったのか……。