電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

4.エッセイ『指導者とは』

リチャード・ニクソン著:(isbn:4168130096
1970年代のアメリカ大統領ニクソンが、自分の会った各国指導者について書いた人物評。対象はチャーチル、ドゴール、日本占領下のマッカーサー元帥、吉田茂、旧西ドイツのアデナウアー、フルシチョフ周恩来蒋介石などなど。
謙虚な奴には指導者は務まらない、だが、人の話を聞く奴でないと指導者は続けられない、ということがよくわかる。
公爵家の出のチャーチルは、保守党に属しながら福祉政策を推進した。貧しい労働者が社会主義の支持に走るのを予防するには、政策の先回りが最良だからだ。
今回初めて知ったが、WW2末期、日本とドイツは連合軍の猛爆撃で工業施設の大部分が破壊されたけれど、逆説的にこのため戦後は最新の設備を導入できた。一方、英国などは旧態然の設備が残ったそうで、チャーチルは非常に悔しがってたとか。
ドゴールは晩年、白内障で視力が低下しても、決して人前では眼鏡をかけなかったという。1960年代まで「老いたから眼鏡を掛けるようになった指導者」はナメられると思われていたのだ!
ニクソン自身もなかなかの曲者である。米中国交樹立のおり、中国側が在日米軍のことを危険視しているのに対し、こう対応したそうだ。
「「アメリカが日本から出ていくのは可能だが、出れば別の連中が入ってくるでしょう」と、言外にソ連を匂わせ、最後に日本はクレムリンと仲良くするか、再軍備するかの、どちらかの危険があると言った。」(387p)
他にも興味深いエピソードは大量に載っているが、改めて思うに、WW2前後のような20世紀の巨頭クラスの政治家が成立し得たのは、メディア露出がコントロールできた時代だからじゃないかという気がする。大統領や首相がみずから、随時TwitterFacebookで人気取りアピールせにゃならん現代では無理そうな話も多い。