電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

列外(ワースト).TVアニメ『ガッチャマンクラウズ インサイト』

製作:タツノコプロhttp://www.ntv.co.jp/GC_insight/
2013年放送の前作『ガッチャマンクラウズ』は、結局「ネットで直接参加民主主義になれば万事解決ユートピア実現」とでも言いたげな、余りに脳天気すぎる展開が鼻についた。製作と放送のタイムラグなどを考えると、これは2011年当時の311直後、被災者を助けるのにツイッターが活用された事態などを念頭に置いて企画されたのかと思われる。
一方、本年放送の続編『インサイト』は、前作とは反対に「大衆的なネット世論が『空気』に左右される衆愚政治を生みだす危険」がテーマで、今度は2013年末の安倍内閣発足以降の状況をみての企画だったのかなあ……などと勘ぐることもできる。
劇中の群衆は、ネット選挙でいとも簡単に政治にはド素人の異人ゲルサドラを首相に選び、「ゲルサドラに従わない奴は空気が読めない異端者」という悪意なきファシズムに突き進むが、その同調圧力がしだいにウザくなると今度はいとも簡単にゲルサドラを悪者扱いするという、そのときどきの「空気」の無責任さが皮肉たっぷりに描かれる。
そんな本作品の主張内容自体はかなり正しく思えるのに、物語としてはちっとも面白くない。前作ではいろいろ試行錯誤しつつヒーローを目指していた主人公のはじめが、今作では妙に悟ったようなお利口ちゃんになってるのがつまらない。代わりに新キャラのつばさが安易にゲルサドラを支持して途中で自分の誤りに気づく役なのだが、なんか真面目な良い子すぎてリアリティがない。
要するに、本作品にはバカやイケてない人間が出てこないのだ。まさに、上記『マッドマックス4』におけるニュークス君みたいなキャラがいないのである。煽動者の悪役・理詰夢くんはその名の通り現実感のない概念の擬人化にしか見えない。もっとちゃんと「モテない」とか「貧乏」とか、それゆえ「そんな俺でも国家とか民族とか偉大な指導者とか大きなものにつながることで輝きたい」といった生臭いルサンチマンが動機のやつを描けよ。
さて、これをワーストに挙げたのは、わたしが娯楽作品として接したものの中での話だ。本年わたしがあらゆる点でサイテーだなと思った表現物は、はすみとしこの「そうだ難民しよう」(http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1510/05/news107.html)である。
この作品の根底には「難民はいい思いしてやがる」という「弱者への嫉妬」が透けて見える。要するに「俺も弱者になりたい」「自分は"弱者"としてチヤホヤされないから悔しい」ってことだろ、そう正直に言えよ。『ガッチャマンクラウズ インサイト』は、作品テーマがご立派でも、まさにこういう生臭い下世話な本音キャラが出てこないからリアリティがなかったのだ。
なるほど確かに、楽がしたい偽難民や難民に偽装したテロリスト"も"いることだろう、だがそれは難民全体の何万分の1だよ? このイラストの作者とその支持者は、11月にパリでイスラム過激派のテロが起きて「難民に偽装したテロリスト」の問題に注目が集まったのをさぞや喜んだことだろう。それこそ、原発事故が起きて喜ぶ反原発運動家や、中共チベット人が撃ち殺されて「やった中国を叩けるネタができた」と喜ぶ反中派のように。
断っておくがわたしも偽難民やテロリストを擁護する気はない。だが、べつに自分は努力して先進国民になったわけでもなく、運良く最初から裕福な先進国に生まれついて住んでいながら「弱者への嫉妬」ははしたないと言いたいだけだ。
それに、難民は「他人の金で」楽しているというが、その難民を受け入れてる豊かな先進国の経済インフラは全部、難民を非難してるあんたが一人で作った物か? わたしたちはみんな、先人がつくったものにただ乗りしているだけだ、それは先進国民も難民も同じだ。
でも、難民を不謹慎なパロディ材料にしたこの作品への正しい対応は、正面きって真面目に批判することよりも、画像を作者の顔に差し換えて「注目されたい ドヤ顔したい よく言ったと言われたい 差別好きのネット民からチヤホヤされたい 他人の不幸をネタにして そうだ炎上しよう」というパロディを作ってやり返すことだろう☆
――と、書いているわたしは、相変わらず貧乏でモテず低空飛行でも、まあ99%は自分のせいだしとひがまず、上にも下にも嫉妬せず、ダラダラ自足して生きてゆきたいです。
それでは皆様よいお年を。