電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

ある寓話

 その町は非常にきれいな町だったが、本心からその町に愛着を抱き、他の住人と精神的に何かを共有している住民は一人もいなかった。
 なぜなら、その町は、よそ者同士ばかりの寄せ集めでできていたからである。
 だから、その町の住人たちは皆、腹の底では、隣の人間が自分を脅かしているのではないか、という相互不信の疑心暗鬼を抱きながら暮らしていた。当然、住民たちが何かのために一致団結することなど一切ありえなかった。

 ある日、街に一人の流れ者がやってきて、大声で叫んだ。
「この町の住人は皆よそ者同士だ! 本心から町に愛着のある奴なんかいない! お前らはみんな、隣の奴が自分を殺そうとしてると疑って暮らしてるだろう、違うか?」
 町の住民たちは、生まれて初めて一致団結し、この危険な流れ者を叩き出したという。

――もっとも、流れ者が去った後、すぐまた町の住民は以前と同じように相互不信の疑心暗鬼に戻ってしまったそうであるが……。


  • オチ案1:流れ者は実は、住民の愛郷心のなさを嘆いた町長に雇われてたとさ。
  • オチ案2:以後、その町では定期的に自発的に流れ者役を作るようになったとさ。
  • オチ案3:後に住民たちはわざと流れ者を町に置いて集団で嘲る習慣をつけたとさ。