電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

『晴子情歌』と中上健次 覚え書き

年末、仕事関係で読むことになった、高村薫『晴子情歌』が、いきなり2003年の私的読書ベストに入ってしまった。
同作品を読んで真っ先に連想したのが、中上健次の『岬』『枯木灘』『地の果て 至上の時』の紀州サーガ三部作である。何しろ、中上の同シリーズの主人公の名前が秋幸、高村『晴子〜』の主人公の名前が彰之だ。そういえば土着の産業に密着した地方資本家一族による、地域社会の解体、という構造も重なってるといえなくなかろう。
そして何より、高村自身、作家デビュー以前に読んでたのはほとんど海外ミステリだが、日本の現代作家で例外的に愛読してたのは中上健次だと以前から言ってたそうである。
が、ざっと大雑把に書評を探した限り、この点、高村薫への中上の影響について論じたものはほとんどなかった(野崎六助の評論本『高村薫の世界』も然り)。
まあ高村と中上じゃ、読者層も作風も全然違う作家として流通してるってことなんだろう。高村といえば国際謀略サスペンスやら企業犯罪ミステリ作家と思われてきたわけだし。
――と、いうわけで、誰も指摘してなさそうだから、高村と中上を繋ぐ線について、わたしの推理を書いておく。