電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

「判官びいき」は反体制? 新撰組は反天皇制?

同様に、日本の民間伝承でおなじみのキャラクターに、牛若丸こと源義経がいる。世に「判官びいき」と言われるように、民話や伝統芸能の物語世界では、現実に勝って権力を握った源頼朝より義経が庶民に愛されてきたが、これは賊将をひいきする反体制的、左翼的傾向なのか?(笑)、しかしその一方で同時に、儒教的な忠義の美を描いた忠臣蔵も庶民に愛され続けているわけで、庶民はいちいちそれを矛盾だとか、思想的に正しいか、なーんて考えてたワケはなかろう……
きっと自分の政治的思想的立場と矛盾してしまう物語、英雄像が好きで悩んだ奴は、過去にもずっと、左右問わずいたはずだ。
つい出展を忘れたが、戦時中、国民精神発揚のため、盛んに忠孝の義やら通俗儒教価値観が説かれた時期、そーいう文脈で一部で新撰組西郷隆盛が持てはやされたが、考えてみれば新撰組は幕府の手先、西郷隆盛西南戦争を起こし、どっちも朝敵じゃないか、何を言っておるんだ、という意見があったとかいう話を聞いたことがある(笑)
だいたい、英雄像、物語像の類型は、それにロマンを馳せる庶民の様々な願望をないまぜにして、何百年、何千年とかけて培われてきたものだろう。それをいちいち大真面目に「これは愛国的」「これは反体制的」とか言っててはキリがないだろ、っての。
逆に、はじめから「愛国的」とか「反体制的」を目的に書かれた物語(映画や文学や漫画やドラマ)では、単なるプロパガンダ作品としかならず、面白くも何ともなかろうに、ってね。