電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

死の翼あほうどり号

冒頭、モノクロフィルムの19世紀末の飛行実験の実録映像の後、まず英語で出るタイトル、「Master of the World」、なんか題名が偉そうで強そうだ。空中戦艦の名はアルバトロス号、小説ではわざわざ「あほうどり号」となってたが、俄然、こっちのが格好良い、宮崎駿もそう思ったことだろう。
で、結論から言うと、この映画、本当に中学生当時に観てたら凄まじく熱中したろうなあ、とは思った。今日の眼ではまるで稚拙な特撮と、まだいまひとつあの男気が未完成のブロンソンを取ったら、中学生の邪悪な情念を煽るマッドサイエンティスト、しか無い(笑)
ヴィンセント・プライスの演じるロバー(ロビュール)は、空中戦艦に拉致したヘンリー・ハルの演じる兵器商人に怒鳴られこんな問答をする。
「きみは自分を独立国家だと思うのかね? 他国を非難し、宣戦を布告するような」
ロバー「私は一人の人間として、戦争に挑んでいるのだ。この船の目的はそれだ。この世から戦争を無くすのだ」
「方法は何だ?」
ロバー「無敵の力で威嚇するのだ」
そう言って、ロバーは各国軍隊の頭上に爆弾を降らせ(一応、降伏勧告はして、それに従わなかったから、だが)、戦場に来て「そんなに戦いたければ私が相手だ」と言って両陣営に爆弾を落としたりするのだ。
おお!! コイツ、本物のキチガイじゃねえか!?
(考えてみると、この、超兵器の脅威によって、対立する諸国軍隊に平和を説く、というロビュールは「沈黙の艦隊」の海江田と同じである)
やっぱりマッドサインティストは最高だぜ! しっかし、このロバー(ロビュール)という男の信念や狂気は描かれても、動機とか過去はまったく描かれない、何なんだコイツは、というまま、ラストは空中戦艦と共にわけのわからぬ最期を迎えるのである。この辺、むかしのSFというのはおしなべて大味といえば大味だったのだが、昨今ではそこを細かくやりだすとただのAC系サイコ風味にしかならんのだろうな、とも思うと色々難しい。