電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

炎天下の交通弱者(ヘタレ)

自転車のタイヤがパンクしやがったんで、炎天の下、タイヤからチューブを引っ張り出して修理する。暑いんでゴムも伸びきってて、ひょっとしたら少し溶けかかってたんじゃないかと感じられたくらいだ。冬場に比べ、さぞやよく貼り付けたパッチもよく癒着したことだろう。で、修理が済んで空気を入れるとパンパンに膨らみ、入れすぎたかなとか思い、ふとバカなことを想像する――ええと、暑さのせいで空気も膨張してるわけだな、するとひょっとして、この季節にタイヤに空気を入れすぎると、冬になると破裂するかな?
冷房の効いた部屋に帰って頭を冷やして考え直した。それって逆だよバカ! 今は熱で空気が膨張してるけど、冬場になりゃ冷えると収縮するからむしろしぼむはず、で、冬場に空気をパンパンに入れたら、夏になってそれが膨張して破裂するかも知れない、だろ!――ああ情けない、この歳になると中学の理科の基礎まで忘れかけてるや(笑)
で、直った自転車で、鷺宮図書館まで西武新宿線沿線ののどかな住宅街を川沿いにダラダラとサイクリングする。鷺宮〜中村橋界隈は、群小古本屋が多いが、やたら道が狭いのにバスの路線もあり、結構大変である。で、以下はその時の散文的な風景なのだが、なんだか凄く暗示的というか皮肉なメタファーとも読めそうな気がしたんでスケッチしてみる。
歩道というのは歩行者という交通「弱者」の専用路である。自転車に乗ってる自分も、車道を走ってて自動車にぶつけられるのはかなわないから歩道を走りたい。だが、歩道は狭い、なんでだよ? 道路事情が悪いのは行政のせいか? いや正確に言えば東京は土地も狭いのに人口密度が高すぎるからだ、要するに、この国では「弱者の席」は行政によって少なく限られてるのだ――とか思ってたら、さあその「弱者」の歩行者が来たぞ、自転車で歩道を走ってて「弱者」である歩行者にぶつかれば、自分が「加害者」になってしまう。それでは責められるし困る、ああちくしょう「弱者」様め、面倒くせえ、で、歩道を外れて車道の端を走る、と、今度は後ろからバスが来やがった、またうぜえなあ、でもまあ、さっきとは逆に、今度は自分がバスにぶつかられた場合は自分が「弱者」様だ――いや待て、バスの運転手の方は、まさにさっきの俺と同様、うわ、この自転車の「弱者」様め邪魔だよ俺を「加害者」にさせるな! と思ってるかも知れない。
……とまあ、休日の午後に図書館帰りの路上でダラダラ考えたのは、今の世の人間は皆、まさにこんなふうにして、狭い「弱者席」にいる人間を妬み、どうにか自分も「加害者」にさせられてしまう気まずさを回避して「弱者席」に座って「弱者特権」の保護を得られないか、ってな思考で汲々としてるんではないか……ということである。
そういや先日、ばくはつ五郎氏

この間のイラクの人質事件バッシングなどは、ああした異常事態によって「弱者」「正義」という「特権」を彼らが得てしまうことに対する、不安定な大衆からの先制攻撃だったと僕は見ている。

って書いてたしな。
え、たかが自分が自転車でコケそうになっただけの話を考え過ぎだって? ああ、たぶん暑さのせいでボケてんだよ、今日は中学理科の初歩を間違えたくらいなんだから(笑)