電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

町工場がなかった国

そういえば『終戦のローレライ』終章は、戦後日本史の圧縮ダイジェストになっている。
 読売新聞の世論調査によると「戦後日本の功労者」のダントツ1位は田中角栄だという。まず異論はない。

政治ニュース - 4月23日(土)22時53分
日本の発展、最大の功労者は田中角栄氏…読売世論調査
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050423-00000012-yom-pol

「戦後日本」を説明する人間を、角栄を外して、代わりに3人挙げろと言われたら、わたしが挙げるのは、本田宗一郎三島由紀夫手塚治虫、かな。それぞれ「技術と産業」「政治と文学」(の齟齬)「科学と進歩」のヴィジョンをよく示した代表と見なしてよいだろう(ちなみに「科学」と「技術」は違います)。
……とかいう話と関係なく、脈絡なく不意に「大英帝国の北海道」がそのまま独立国となっているカナダやオーストラリアには、果たして、戦後の日本や、その後の韓国や支那のような「高度経済成長期」というものがあったのだろうか? と、変なことを考えた。
アジア諸国の一部や、旧東側諸国の一部は、日本がくぐったような形で、第二次産業の発展を経ずして、いきなり第三次産業中心社会に移行したように見えなくもない。
それらの国々の生産性、工業品質のレベルが日本のそれに及ばないのは、それゆえのことではないか。
無論、朴正熙やマルコスのような独裁者による上からの重工業開発政策、いわゆる「開発独裁」を経ている場合もあるが、本当に、民衆によって下から支えられる「大田区の町工場群」みたいなものがあったか否か。
 もっとも、日本人がその価値に気づいた頃には産業構造は移行しきった後だったわけだが……