電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

「ありふれたビジネス本かよ?」と思うなかれ

PHP『営業職大事典! 意外と知らない「あの業界」のセールス』(isbn:4569644813)刊行。
1年前に、廣済堂で『人間関係がニガテでもうまくいく天職ガイド』(isbn:4331511170)をやったが、まさに節操なしというか、今度はまるで正反対のコンセプトだ。
今回は、人に接するのが仕事のアルファでありオメガである「営業職」という切り口で、自動車、建設、石油、食品、酒販、家電、IT、広告、旅行、アパレル、製紙、印刷、農協、銀行、証券、保険、商社、運輸etcetc……、といった、重厚長大から軽薄短小まで、あらゆる業種、業界の営業担当の仕事内容を概説している。
さて、世に「営業関係のビジネス本」は数多い。が、そのほとんどは「営業ノウハウ入門本」の類である。
つまり「顧客の信頼はこうやって勝ち取れ」とかいう、なんだか道徳の教科書みたいな精神論か、あるいはそれを偽悪っぽく言ってみたバージョンとしての「顧客の心を意のままに操る悪魔の洗脳テクニック」とかなんとかの類に、あとはセールストークや提案書の雛型モデル実例がついてる程度の、どっちにしろ、抽象論がほとんどだった。
しかし、世の「営業関係のビジネス本」がそうなるのも無理はないのである。
営業とひとくちに言ったって、何を売るか、どんな客に、どんな形式で売るか、業種、業界によって、その内実はまったく違うのだ。
例えば、食品業界の商材は店頭単価は100〜1000円台の安い消耗品であり、一般消費者を顧客とし、町のスーパーなどの販売店が取引先だ。これが自動車業界なら、商材の単価は100万円台で、数年に一度買い換えるような商品だ、一般顧客向けの乗用車なら、ワンボックスカーが良いか2シーターが良いかなど、顧客の家族構成、使用目的は通勤かレジャーかなどまで聞いて商談を進める必要がある、さらに同じ自動車業界でも法人企業を顧客とする大型トラックなら、取引の考慮ポイントはまたまったく違ってくる……
営業職はサラリーマンの代表格というが、その業種、業界、さらには業界内での規模、取引先によって、一時が万事この調子、営業職の仕事はまったく異なる。ゆえに「営業職のためのビジネス本」は、どの業界にも当てはまるように書こうと思えば、抽象論しか書きようなくなる。
本書は、まさにそのような「営業職という暗黒大陸」を、抽象ではなく、個々具体に明らかにする職業ルポの試みである。