電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

龍に不死鳥に鬼に一角獣にヘラジカ犬…

PHP文庫『世界の「神獣・モンスター」がよくわかる本』(isbn:4569668208)刊行。
05年刊行の『世界の神々がよくわかる本』(asin:4569665519)、06年刊行の『天使と悪魔がよくわかる本』(asin:456966685X)と併せ、ひとまずシリーズ第三作と、いうような形になりました。
『世界の神々』以来、ハッキリ言って、先行類書は存在しますが、今回は本ッ当に、その中でもちょっと例を見ない出来になっているはずです。
と、いうのは、今回、執筆資料にするため同様の本を探してみて痛感したが、たいてい先行の「世界の神話や伝説に出てくる怪物の本」というと、「世界の〜」と銘打っておきながら、実際その内容は、ヨーロッパと中華文化圏のものがほとんどとなってます。
ヨーロッパでいえば、ドラゴン、フェニックス、ユニコーンetcetc…、東洋では、鳳凰麒麟、九尾の狐etcetc…この辺は定番として、北米、南米、アフリカ、オセアニアなどの神話や伝説に出てくる怪物が載っている本はなかなかありません。
そんな中、今回、本書は
・PART.1:ヨーロッパ(ギリシァ神話、北欧神話ほか)
・PART.2:北米(インディアン各部族伝承、白人の民間伝承ほか)
・PART.3:南米(マヤ・アステカ・インカ神話、先住民伝承ほか)
・PART.4:アフリカ・オセアニア(エジプト、アボリジニ神話ほか)
・PART.5:アジア(中東、インド、支那、日本神話ほか)
という構成をとっており、監修の東先生も前回以上に綿密に見ていただきました。
わたしは、アフリカとオセアニア、アジアの中の日本、と、またも節操のないパートを担当してます。アフリカといってもエジプト神話と「ヨーロッパから見てのアフリカ」が半分以上ですが、マリのドゴン族に伝わる半魚人こと「ノンモ」など、他の類書ではなかなか名前をみないであろう黒人部族の伝承からのものも収めました。日本のものでは「件」とか「コロポックル」なんてのも入ってます。
本書中、多分とくに他社の類書じゃなかなか読めない情報が詰まってるはずなのがPART.2の北米の章。と、いうのは、これが南米なら、かつてマヤ・アステカ・インカという先住民の国家があり、神話や伝承も比較的に体系たって残っている。しかし、北米では、白人が入ってくるまで、アメリカインディアン(ネイティブアメリカン)には統一国家もなく、各部族がバラバラだったので、体系だった神話や伝承が乏しい。
この難物の北米の章をやりとげたのが、西部劇マニアの畏友T氏で、インディアンと侵略者たる白人の確執という開拓史の裏面を雄弁に語るような先住民各部族の伝承と、「ジャージーの悪魔」など白人の噂話フォークロアの類を、見事に多数集めてくれている。
ほか、南米の章も、マヤ・アステカ・インカ神話以外の、なかなか知られていない民間伝承、先住民伝承とそれを聞いた白人の妄想的空想の融合した怪物などの類も、かなりフォローしてくれている。
きみは「ヘラジカ犬」を知っているか? わたしも「何じゃそりゃ?」と思った。別に角が生えた犬とかではない、名前が奇妙なだけで実は怪物でも何でも動物なのだが、その由来にも、インディアンと白人の摩擦の歴史が秘められている……。
――と、いうわけで、興味を持たれた方は書店で手にとっていただけるとありがたいです。