電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

ガソリンの臭いがする仕事

そんなわけで、PHP文庫『ゼロ戦の秘密 驚異の性能から伝説の名勝負まで』(asin:4569671845)発売。
零戦の初登場から、真珠湾攻撃ミッドウェイ海戦などを経て終戦までの活躍、零戦21型、32型、52型といった各モデルとライバル機の図解、開発秘話などを網羅。余談ながら、機体イラストを担当してくれた小池輝政氏は、元は本職のカーデザイナーです。
当方は、「はじめに」つまり前書きと、第4章「人物でたどる零戦」、第5章「零戦なんでも雑学」の項目を担当。
第4章では、零戦のエースパイロットだった坂井三郎、岩本徹三、杉田庄一らのほか、戦時中の海軍航空参謀だった源田実、零戦開発の中心人物だった堀越二郎らを紹介。
第5章では、零戦パイロットはどんなメシを喰っていたか、という話から、予科練の日常、飛行中にトイレはどうしたかという話やら航空隊員のお守りにまで言及……こういう本では、とかく戦場での戦闘や、メカとしての兵器の話ばかりになりがちな中、当時の航空隊員の「生活感」を説明することに注意しました。
今回は最後に「はじめに」の部分を自分が任されることになって、けっこう気合いを入れたヤツを書きました。この部分だけでもぜひ読んで欲しいんだけど、要点はこう。

  1. 戦前戦中、日本は今よりとにかく圧倒的にビンボーで何もなかった。
  2. 零戦はそのような中で生まれ、その経験が戦後の技術立国日本の基礎となった。
  3. そんな過去を忘れ、産業空洞化、金融破綻の今こそ当時の日本に目を向けろ。

零戦や新幹線など、戦前から高度経済成長期までの「重厚長大」産業が中心だった時代の産物が輝かしいのは、単にそれらを生み出したテクノロジーが優れていたからではない。
それらを生み出す過程の中に『昭和三十年代主義』(asin:434401491X)で強調されたような「技術」と「必要」で繋がる人間関係があり、それゆえ技術者や労働者や運用する人間の知恵や工夫、勇気や忍耐、信頼や自己犠牲のドラマが秘められているからだ。
ゼロ戦の秘密』と平行して同じく「重厚長大」産業の価値観を描く企画として、学研『機動警察パトレイバーザ・レイバー・インダストリー レイバー開発全史』(asin:4056050880)という本の仕事もした。
本書は「パトレイバー世界で実際に刊行されたレイバー産業史の本」という体裁で、詳細はこちらの畏友・中川大地氏(id:qyl01021)による紹介を参照されたい。
当方は、篠原重工、菱井インダストリー、シャフト・エンタープライズといった劇中の企業の解説(要するにもっともらしいウソ社史)などを担当。
アニメ『機動警察パトレイバー』は、1980年代末のバブル経済絶頂期、ゼネコン土建屋大繁盛の時代を反映した作品だった。しかし、その根底には、重厚長大なメカに携わる人間同士の地味ぃな努力と信頼関係のドラマがある。そのへんがうまく伝わる本になっていれば幸い。
もっとも、こういう「重厚長大」価値観復権論も、語るは易し、実践は大変なのだが……。