電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

7.映画『意志の勝利』

監督:レニ・リーフェンシュタール
1934年のナチス党大会の記録映画。DVDも市販されておらず、ヨーロッパでは今も公式には上映をはばかれる幻の作品である。シアターN渋谷で観賞。
良くも悪くも国家社会主義エートスというものがよくわかる。
やたら姿勢の良いヒトラーの演説、異口同音に総統を讃えるナチス幹部、はどーでも良い。
注目すべきなのは、労働者階級出身の平党員たちの生の姿だ。
党大会に集まった青年団のキャンプはワンダーフォーゲル部のようなノリ。人が入れそうなぐらいでかい鍋でシチューだかを作って皆でわいわいと食らい、上半身裸でレスリングに興じる。どいつもこいつも凄く楽しそう。まさにホモソーシャルの楽園(笑)。
ナチス労働戦線の青年たちは、銃の代わりにスコップを担って整列する。そして、観閲するヒトラーを前に「同志よ、どこから来た?」と問われ、次々に「シュレジェン」「バイエルン」「ライン地方」「ポメラニア」などと答える。続いて口々に「我々は斧を振るって森を畑に変える」「我々は畑を耕す。ドイツ国民の食物を作るため」「我々は道路を建設する。町から町を結ぶため」などと口々にみずからの働きぶりを力強く宣言する。
彼らの一人一人の日々の仕事は、あくまで自分が働いてる土地での目先の汗臭い単純労働でしかない。しかし、このように一同に結集して「各地の同胞が同じように働いている」という連帯感を再確認するとき「自分一人の労働もまた、祖国の国民全体のためにある」という壮大な使命感、充実感を覚えていたのだろう。彼らも清く貧しく美しい愛すべき若者だったのだ。
が、そーいう連中が、命令とあればユダヤ人や共産主義者や占領地住民の大虐殺もやってしまうというのが、政治の、というか人間の理不尽なのある。
(もっとも、2位に挙げた『二つの全体主義』を読むと、ドイツ軍の平兵士の多くは強制収容所の悪行を知らず、解放された収監者には同情的だったようだが……)。
20万人が集まったというこの党大会の10年後、参加者の多くは、彼らを熱狂させた総統の命令で東部戦線の土になったか、米英軍の爆撃で骨まで灰になった。諸行無常なり。