電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

8.小説『チャイルド44』

トム・ロブ・スミス著(isbn:4102169318
スターリン時代の旧ソ連を舞台に、秘密警察の捜査官が、党の方針に逆らって連続猟奇殺人犯を追うというサスペンス。昨年「このミステリーがすごい!」2009年海外編の1位を取る前から注目していたが、今年春頃にやっと読了。
不謹慎をあえて言うが、やはり不自由な時代が舞台の物語は面白い。筆者は英国の若手作家で、当時の旧ソ連の民衆の生活などを非常によく調べてはいる。もっとも、現実の当時の強制収容所を生き延びた人間の体験記の前では色あせた印象は否めないが。
何より、さんざんソ連共産党の方針に従って反党分子の汚名を記せられた人間を逮捕してきたはずの主人公が、たった一度の挫折がきっかけで「これまでの自分は間違っていた」と心を入れ替えてしまうのはちょっと単純な気がする。
とはいえ、お国を置き換えて考えるなら、果たして現代日本の若手作家に、本作品に匹敵する筆致で、たとえば文革時代の共産中国を舞台にしたミステリが描ける者がいるだろうか? そういう次元で考え直せば、努力作なのは大いに認めるよりない。