電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

9.小説『白昼の死角』

高木彬光 著(isbn:4334739261
今年、仕事で「戦後日本のピカレスク」を振り返ろうと思って最初に手に取った作品。
本作品の主人公のモデルは終戦直後の「光クラブ事件」の山崎晃嗣で、同じく彼をモデルにした三島由紀夫の『青の時代』がアプレゲール的なインテリ学生の刹那的な生き様に終わっているのに対し、こっちはその先、アプレゲール的な精神のままたくましく生き延びる男を描いていて抜けが良い。悪党でも友情は大事にする奴は好感が持てる。
もっとも、本作品が書かれたのは『青の時代』より10年近く後で、その間の戦後日本の安定と、それを見てきた作者の人生経験があってのものなんだろうけど。
高木彬光は同じ医学生出身のミステリ作家ということで山田風太郎と親しかったそうで、メンタリティもどこか似ている。敗戦で既存の権威が信じられなくなり、それでもニヒリズムに陥らず、ただ「犯罪はいけない」とかいうような一般的な道徳観とは別の次元で、人間としてまっとうな倫理観を描こうとした点で。