電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

陰謀論を望む人々

毎日テレビや新聞やネットでは、今の放射線量はどれだけ危険か、いや大丈夫だと双方の見解が飛び交い、東京電力や、玄海原発を抱える九電と佐賀県の悪行が暴かれている。反原発派の真剣切実さは大変もっともなのだが、たまーに少しだけ疑問に思うのは、一部のメディアや過激な反原発派は「東京電力はクソ外道会社であって欲しい」と思っているのではないか、ということだ(まあかなり事実だろうけど)。
同様の印象は、反韓流・反フジ運動の方にはより如実に感じる。なるほど広告代理店の韓流推しは事実だろうが、たまたまフジテレビの番組の画面に映った「JAP18」という語句が日本を貶める暗号だとか、反フジ運動の人たちは、みずからフジテレビが反日テレビ局であることを望んでないか。「やっぱり反日」と思える要素を見つけては喜んでないか?
そう、前から思ってたことだが、陰謀論って「そうだったらいいな」という願望論じゃないのか? 自分の直面する問題は全部あいつらのせいだ、という……
じつは昨年『世界の見方が変わる「陰謀の事件史」』(isbn:4569675336)という本に関わり、陰謀論の構造について簡単に解説した。少し引用しておく。

 かつて「外国製のメンソール煙草を吸うと勃起不全になる」という噂があった。きわめてシンプルな形で、この話には陰謀説の基本構造が詰まっている。
 まず、外国の煙草という点、陰謀を仕掛けているのは自分たちの共同体の外部にいる者であるという認識だ。次に、メンソール煙草という、現在はともかく、この噂が有名だった当時には少し珍しかったアイテムにまつわる話という形式。
 そして、深読みすれば、この噂が生まれた理由は、オシャレなメンソール煙草を吸う人間へのコンプレックスの裏返しではないか、と考えることもできる点だ。
 自分たちと認識を共有しない人種、民族、宗教、思想や、見慣れない新奇な事物への違和感、偏見、反発が陰謀説と結びついていることは多い。

多くの陰謀論は、一見きちんと歴史的な資料や数字的なデータの裏づけがあるようで、実際はデータの母数設定やリサーチ対象の偏り、さらには筆者の意図的・選択的な抜き出しが少なくない(古市さんは違いますよね?)
先日、それをうまく説明するモデル像を思いついた。

角度を変えれば見え方も変わる「箱の中の星座」


たとえば、透明なゼリーの詰まった四角い立方体があって、その中にピンクや緑や青の色鮮やかなチョコチップの粒がいろいろと浮かんでいるのを想像して頂きたい。
ある角度から、ゼリー中のピンク色の粒だけ、あるいは緑色の粒だけをつなげてみれば、なんだかそこにピンクの線や緑色の線があるように見ることもできる。
しかし実際には、最初から意図してそんな線は作られておらず、乱雑にさまざまな色の粒が浮かんでいる。星座のように、見る人の解釈で線を見いだしているだけだ。
また、立方体をどの面から見るか、角度を変えれば線の形はぜんぜん違ってくる。
陰謀論的解釈というのは、すべてそういうものではないのか? 「あれもこれもユダヤ人が関わってる」とか「これは暗号に違いない」とか、同じ色の粒だけを、ある一面の角度からだけつなげて意図的な線があると主張しているようなものだ。
同じ対象でも、見る角度によって見え方は大きく違ってくる。……読売新聞は立方体を上面から見ているが、しんぶん赤旗は立方体を真横から見ていたり、海外メディアのロイターやウォールストリートジャーナルは立方体を真後ろから見ていたり、誰かは真下から見ているかも知れない。
カイジ』の地下チンチロリン編でも語られていたが、全六面のサイコロ状の立方体は、どの角度から見ようとしても、最大で一度に三面までしか見えない。真の像を確認するには2人以上の視点を総合的に照らし合わせなければならないわけだ。
当然、わたしの書いている見方も事実の一側面でしかない。そして実際の現実は立方体の6面どころですまず、人の数だけ見方がある。