電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

3.『ジャンゴ』

例によってタランティーノの「殺されるのは悪党ばっかりだから、いくら残酷でもぜんぜん後味が悪くない脳天気バイオレンス映画」。
西部開拓時代のアメリカで白人農場主にいじめられる黒人奴隷による正義の復讐、という大義名分を悪用していつもの不謹慎ノリが全開、いやあスッキリ。
とはいえ、本作品を撮ったタランティーノの心情が不真面目100%とは思わない。前作『イングロリアス・バスターズ』は、アメリカ人のタランティーノにとって対岸の火事というべきヨーロッパでのユダヤ人のナチスへの復讐の話だ。これを撮った後、タランティーノアメリカ白人という当事者としての立場を描かなければならないと考えたのではないか?
『ジャンゴ』では、逃亡黒人奴隷の主人公に味方するクリストフ・ヴァルツの白人賞金稼ぎが、黒人奴隷を家畜のごとく扱う悪質な白人農場主の前で、本心を隠して迎合するフリをする気まずさの演出がじつに印象的だった。『イングロリアス・バスターズ』で、正体を隠してドイツ軍人に調子を合わせる英国軍人と同じだが、『ジャンゴ』の方はアメリカ白人なら誰もが自分を責められているような気分になる場面だろう。
果たして現代日本で、タランティーノと同じように、「占領下の台湾や朝鮮や満洲で現地住民と同じ日本人雇用主の間で苦悩する主人公」を撮れる映画監督がいるだろうか?