電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

7.漫画『僕だけがいない街』

三部けい:著(isbn:4041205573
ピザ屋でバイトする30歳手前の売れない漫画家の主人公が、少年期(1980年代末)に起きた猟奇殺人事件の犯人を追うサスペンス。著者の三部けいは過去作『カミヤドリ』の乾いたミもフタもなさが結構好きだったが、今回はかなり等身大の作風。
主人公がじつは時間を巻き戻す能力を持っていて、同じ時間をくり返す(ただし自分でも自在に使えるわけでなく、偶発的現象に近い)というのも、思春期のやり直しをはかるというのも、まあ昨今よくある設定。
しかし本作がわりと身に迫ってくるのは、主人公が少年期に虐待を受けていた友人を見過ごした件など、大人になるとついつい忘れる子供の頃の大人や社会に対する無力感、逆に大人になったら目先の生活に流されてあいまいにしまいそうな責任をストレートに描いてる点だ。
近年の漫画やアニメやラノベの青春物のヒット作、たとえば『あの花』とか『悪の華』とか『化物語』シリーズを見てもあまりぴんと来ず、つまり俺もトシかと思ってたのだが、つまり、たいてい少年少女同士の間の自意識の話だけで完結して、大人や社会との具体的な対峙が描かれないから面白く感じないと気づいた。そんなわけで、本作みたいな漫画やアニメやラノベがもうちょっと増えて欲しいと思うところ。