電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

3.『GHQと戦った女 沢田美喜』

青木冨貴子:著(isbn:4103732075
終戦直後の混乱期、占領軍の兵士が日本女性に産ませた「GIベビー」の捨て子のため孤児院を設立したお嬢様の一代記。
明治期から戦前に軍需産業などであこぎに儲けまくった三菱財閥(岩崎家)が敗戦によって没落する過程を眺める下世話なざまあみろ的快感と、裕福に育った人間がむしろそれゆえ財産にこだわらず慈善事業に打ち込むノーブレス・オブリージュへの真面目な感動が同時に味わえるお得な一冊。
沢田(岩崎)美喜の設立したエリザベス・サンダース・ホームでは、収容された子供らが社会に出てから萎縮しないよう、そこいらの一般家庭よりずっと立派な環境で子供を育てていたという話など、昨今の生活保護叩きのようにすぐ「弱者への嫉妬」に駆られる人たちは「逆差別だ」とわめき立てそうだが、沢田の信念には非常に説得力がある。
また、占領軍に接収された岩崎家が、吉田茂やG2のウィロビー将軍からキャノン中佐らの重要人物が出入りする戦後史の重要な舞台になっていたという話なども興味深い。