電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

2漫画『卑怯者の島』

小林よしのり:著(isbn:409389759X
戦時中の日本兵が特攻や玉砕をいとわなかったのは、愛国心とか八紘一宇の精神なんてご大層な大義のためではなく、かといって郷土愛とか家族愛が全部でもなく、結局のところ"目の前の戦友"を見捨てられないという感情だったのではないか?
そのへんを「戦後生まれ」がきちっと描いたきわめて貴重な作品。
本書の大きなテーマは「恥の意識」だ。兵士だってもちろん死にたくない、しかし戦友を見捨てて自分だけ生きのびてよいのか? と苦悩する。うっかり戦後まで生きのびた兵士は鬱屈を抱えて生きることになる。「『卑怯者の島』とは日本列島のことだ」という書評は言い得て妙だ。
小林よしのりは「恥の意識」がある作家だ。もともと厳格な寺の子として育ったのに、軽薄なギャグ漫画を描いてきたことへの照れが漂っている。天皇の祝賀会に招かれたときも、たかがギャグ漫画家風情が自分から陛下に近寄ってはいけないと自重している。このへん、他の今の自称保守愛国者はあまりに自信満々でそういう屈折や慎みがなすぎていけない。