電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

6.評論『世界の辺境とハードボイルド室町時代』

高野秀行×清水克行(isbn:4797673036
『謎の独立国家ソマリランド』(isbn:4860112385)の辺境ジャーナリスト高野と、日本の中世史を専門とする歴史民俗学者の清水のクロスオーバー対談。途上国の生活習慣とかには「日本も昔はそうだった」という点が非常に多い。このブログでは以前、異国の文化や過去の歴史を学ぶことの意味についてちょっとした自説を述べたが、まさにそれがテーマとなった一冊。
たとえば、中世の戦争で実戦に向いていたのは刀ではなく槍、現代なら拳銃ではなくライフル小銃だが、武士階級が差す刀と現代の将校が持つピストルはともに地位の象徴(ピストルの方がライフルより小さいのに高価)という指摘(52p)などは、まさに「文化人類学」ってこういう発想だろという見本。
室町時代の戦乱で武士道もあったものではない略奪放火が横行したのは足軽の集団戦になったからという話(44p)は、第二次世界大戦当時の日本軍に重ねて考えると感慨深い。
はたまた、日本と同じく要件をはっきり言わず「察しろ」という文化のある国は、タイとエチオピアで、いずれも植民地にされた時期がほとんどなく、日本人が空気を読むばっかりで自分の思っていることをはっきり言わないのは異民族に支配されたことがないからという説(283p)なども興味深い。
現代日本しか見てないと気づけない視点がてんこ盛りである。