電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

奇説:梶原一騎のカミーユ・ビダン

梶原一騎ファンからも富野由悠季ファンからも石投げられそうだが、今しばらく「カミーユ≒大賀誠?」説にお付き合い頂きたい。
『愛と誠』の主人公、大賀誠は、幼児期、ブルジョワ令嬢の早乙女愛をかばって額に傷を負い、その怪我が重症となったため家庭が崩壊してグレる。不良になった大賀誠と再会した早乙女愛は、責任を持って彼を更生させようとするが、人の善意を信じない大賀は周囲の誰にもツンツンと接する(デレデレは一ミリもない)
ところが、そんな大賀は、物語終盤、財界の大物である早乙女の父や、仇敵ながら紆余曲折を経て友となった蔵王権太の父も巻き込んだ政界スキャンダルの黒幕を探って倒すのだ。
物語中盤、大賀誠が「どこか悟ったような透明感」を身につける最初の契機は、彼と早乙女愛の通う花園学園を影から仕切っていたインテリ不良少女高原早紀が、姿を消して自殺未遂の後、顔に醜い傷を負って自信喪失した姿で舞い戻り、それまで彼女にひれ伏していた人々が一転して彼女に冷たい目を向ける中、大賀がただ一人、それまでの敵対関係を忘れて優しく接しようとする場面だろうか。
ここでの大賀の心変わりの直接の動機は、自分も過去、額に醜い傷を負い、人生が一転したからだった。が、この後『愛と誠』の物語自体、それまでの敵だった高原やその忠犬、蔵王権太とは打って変わって、本気で仁義も情け容赦もない、新宿ヤングマフィア緋桜組の砂土谷俊という最大の敵の登場で、話の雰囲気自体ガラリと変わってしまう。
物語終盤、大賀誠はちっとも早乙女愛たちの前に姿を見せず、どこかで一人で動いているという展開になるわけだが、ラスト近くで明かされる、大賀の変心の最大の決定的要因は、彼が生き別れの母を見つけたことだったと語られる(その場面は、直接には描かれない)。死んだと思っていた母を見つけ、しかし再会は叶わず、もう現世的日常的な自分の幸福は諦めきる決意を固め、最後の戦いに突き進んでゆく大賀誠……
かなり無理な当てはめをすれば、物語の流れ上での「きっかけ」という意味では、同じ傷を共有した高原はフォウ、それまでの対立構図を覆した砂土谷はシロッコみたいなもんかも知れぬ(キャラの中身、その後の展開はまったく違うが)、大賀の母とのすれ違いは、『Z』終盤での唐突なロザミアとの家族ごっことその崩壊と、出来事の質としては似ていなくもない。