電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

きみも刻の涙を見てくれ

と、いうわけで『Z GUNDAM HISTORICA』02号「黒いガンダム〜怒れる少年カミーユ〜」(講談社)発売。
今回はTVシリーズ第1話〜第5話を概説。
エピソードガイド「Drama & Karma」本文部分を畏友・奈落一騎が担当、キーワード解説、関係図を、わたしが担当(今後も)。
さらに、コラム現実認知「RealizingZ」で、「カミーユの家庭崩壊とスペースコロニー化する日本」と題して、土着の共同体がない人工的なスペースコロニーと現実のファスト風土化する郊外の風景を絡めて、なんか偉そーな文章書いてます。
このほかクロスレビューカミーユ・ビダンってどう思う」とかを、畏友ばくはつ五郎(id:bakuhatugoro)氏、中川大地(id:qyl01021)氏らが執筆。
わたしは03号以降も、フェミニズム、冷戦構造とその解体など、『機動戦士Zガンダム』放送当時の時代状況、そして現在へと連なる視点を再検証する知ったかぶりなこじつけコラムを展開予定。
――って、確かに「今さら80年代論かよ」とは書いてる当人でも思うことだが、ネタが1985年放送の『Zガンダム』なるがゆえに、現在との違いが分かりやすい高度経済成長期とかと異なり、なまじ現在と地続きゆえ、きちんと言語化されてない近過去を、いろいろな角度から虫干しさせていただく次第。
事実、映画化とCS放送を機会に、20年を経てこの作品再鑑賞したら、リアルタイム放送時は見てて嫌だったアムロやシャアの歳の取り方とか、よく分かる気がする、ってな人、すげー多いみたいです。本来アニメとか観ない人の間でも。

「ガンダムは大人になってから」(by奈落一騎)

ちなみにこの『Z GUNDAM HISTORICA』、『ニュータイプ』など現在のアニメ誌がそうそうやらない、かつての1980年代当時の『OUT』『アニメック』のよーな本音批評&お遊び心を意識しつつ、現代に即して甦らせた編集を目指している。
その理由は、奥付の「editor」欄をご覧頂ければ、現在30歳以上の、少し特殊な人(笑)ならばご了解いただけるであろう(既にご存知の方もあろうけど……)。
例えば、キャラクター概説コーナー「星々の群像」内の小コラム「カミーユの”なぐりあい宇宙”」など、絶対に他誌ではやらん必見の爆笑企画である。
諸君は『Zガンダム』中、カミーユが人を殴った回数と、殴られた回数をご存知か?
まあしかし、本音ツッコミ批評を目指した結果、02号では多くの執筆陣がカミーユには手厳しい。
俺もリアルタイム放送当時そんなカミーユって特に共感してたわけじゃねえけどよ、「もし自分が17歳で、(憲兵とは言わないが)周囲にいつも威張ってる嫌な大人がいて、(モビルスーツとは言わないが)拳銃を拾ったら?」とか想像すると、案外あんまり第1話、第2話のカミーユのキレ方、他人事とも思えぬのね(いや俺実際17歳で、どこぞのヤバい大人の所に殴りこんで変な事件起こして初逮捕されてるし、おっとっと……)
まあでも、そんな距離をおいて見直せるのも、ようやく思春期は遠くに過ぎてこんな歳になったからかなあ?などとも思ってみるのであった。

必然あるシンクロニティ

『TONE』第2号の戦争特集で『はだしのゲン』についての短評を書いたら、見事なタイミングで『ダ・ヴィンチ』8月で呉智英夫子の連載「マンガ狂につける薬」にも『はだしのゲン』が『拝啓マッカーサー元帥様』と共に取り上げられた。
ゲンと隆太がお手伝いに行った先の絵描きの政二おじさんのエピソードが引用されているが、この話、わたしも『TONE』の原稿で、変節者町内会長のおじさんと並べて取り上げたかったのだが、字数の関係でやむなくカットしたので、まさに相互補完的内容と勝手に思っております。夫子ありがとう。
かつてはその絵描きの才能で家族にもチヤホヤされてた政二おじさん、だが被爆して全身大火傷となり、生きながらいして腐臭を漂わせる肉塊となった彼を、家族は掌を返したかのように厄介者として扱い、陰では早く死んでくれることを願う……この話、ガキの頃は本当にトラウマだった。
戦争において恐怖の象徴となるのは、敵兵や敵の兵器より、戦争という状態によって変節する、いや本音を露呈させられる隣人なのだ。
思えば、永井豪デビルマン』漫画原作版クライマックスの悪魔狩りの集団ヒステリーの描写とか、70年代の傑作マンガはそんなんばっか描いてきたものである。
んが、ここへきて、911以降の、顔も知らん異物としての他者の恐怖ばかりを描く言説の流行は、想像力の欠落じゃねえかと思えてならない。
中沢啓治はアカだって?そんなこたぁ知ってる『はだしのゲン』はもはや単純な左右のイデオロギーなど超えた怨恨怨念漫画だから傑作なのだ。
考える事は皆同じか、そういや『ダ・ヴィンチ』8月号「戦争と戦後を考える35冊」と題して、筆頭に『TONE』第2号でも取り上げられた『男たちの大和』や『夕凪の街 桜の国』が挙がってた。
とか思ってたら、これまたタイムリーに『Official File Magazine ウルトラマン』講談社)のVol.2に上原正三インタビューが掲載、さらにVol.6では『帰ってきたウルトラマン』第33話「怪獣使いと少年」を特にクローズアップ。しかもこの記事書いてる吉沢晃一氏は『架空世界の悪党図鑑』でもご協力、ご一緒させていただいた間柄であった(ただし奥付に名前が落ちてますが…)
と、書くと宣伝くさいが、いや本当に書店で手に取って初めて知った。いやマジ。
と、いうわけで、わたしの拙文と併せてお読み頂ければ幸い。

『天職事典』(PHP)増刷

宣伝ついで。わたし(佐藤賢二)が執筆参加の職業ガイド本。
これまでこの手の実用書仕事はここでは触れてこなかったが、なんと2000年の刊行から5年間で、確か20刷を超えてるのではないかと思う。
わたしにとっては(小額づつながら)、忘れた頃に印税収入になってくれてる数少ない本。
今となっては内容的に旧くなってる部分もありそうなのに良いのかな?……と思いつつも、こーいう本が版を重ねるのは、やっぱ長期不況と転職ラッシュのご時世ゆえかと痛感。
今はなき中野サンプラザの就職案内で資料を漁ったのが懐かしいぜ。
ちなみに現在この仕事の発展企画が進行中。まあ、ご参考までに紹介、ということで。