電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

きみと世界の戦いでは世界に支援せよ

先週このような報道があった。

「中国が超大国になる」と考える人の割合、日本は主要国で最低
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150702-00000003-wordleaf-nb

この記事と同じ内容の詳細は『Newsweek』7月7日号に「アジアのお騒がせ大国が世界で求心力を増す理由」というタイトルで載っているのだが、読んで相当にショックを受けた。
なんでも40か国中27国で「中国が世界一位の大国になるという意見が多数を占めた」との話で、中国はアメリカを追い越すか? との問いへのYES/NO率は以下のようになるという。

国名 NO YES
アメリ 48% 46%
フランス 34% 66%
スペイン 34% 60%
イギリス 35% 59%
ドイツ 37% 59%
イタリア 36% 57%
ロシア 35% 44%
イスラエル 34% 56%
トルコ 33% 46%
中国 16% 67%
オーストラリア 27% 66%
韓国 40% 59%
パキスタン 19% 53%
インド 33% 37%
インドネシア 40% 32%
フィリピン 65% 25%
日本 77% 20%
ベトナム 67% 18%
アルゼンチン 32% 56%
ブラジル 56% 34%
ケニア 44% 48%
南アフリカ 33% 40%

なんと中国と比べられてる当のアメリカで意見がほぼ拮抗。EU圏の先進国は軒並み中国がアメリカを超える大国になるとの見解が多数派、いっけん中国から恩恵を受けてるとも思えないオーストラリアも同様。中国をライバル視するインドさえ中国がアメリカを超えるとする意見の方がやや多数だ。
そして中国がアメリカを超えると見なさない人間が圧倒的に多数なのは、日本のほか南沙諸島問題で中国とモメている最中のベトナムとフィリピンだけではないか!
ミもフタもない話、日本、ベトナム、フィリピンの見解は「中国がアメリカを超える大国にはなって欲しくない」という願望だろう。
EU圏やイスラム圏やアフリカなど感情的な反中意識を持たなくてよい国々は、純粋に経済力と軍事力だけで評価しているはずである。その結果はかくも残酷だ。
断っておくが、わたし個人は中国の肩を持つ気は毛頭ない。わたしも中国が世界一の大国になるのはなんかイヤだ。だが、この世界各国との見解のズレは非常に深刻ではないか。
かつて1990年にイラククウェートに侵攻し、アメリカを中心とする多国籍軍が現地に集結してイラクとのにらみ合いが続いていた時期、当時の日本の平和主義リベラル派の多くは「イラクとの開戦はない」と発言した。だが、すぐ実際に湾岸戦争が起こったのは周知の通り。
当時のわたしは、開戦しないで欲しいと「願望」するのは自由だがそれを現実的予想と混同してはイカンだろ、やっぱ左翼の平和主義リベラル派は夢想家、保守の方が現実主義だな、と思った。
ところが今や、反中を唱える保守派の方が「願望」で目が曇っている。
――こう書けば、中国経済がダメな理由「だけ」を何百も並べ立てる人や、「世界の連中はわかってない。中国のすぐ隣の日本が一番中国をわかってる」と言い出す人がたくさん出てくることだろう。それもまた事実の一側面としては正しいと思う。
しかし、視点を変えて、ためしに世界各国で「ロシアが今後大国化するか」を問えば、NOの人の率が一番多いのはウクライナジョージアグルジア)、これが英国だったらNOの人の率が一番多いのはアイルランド、インドだったらNOの人の率が一番多いのはパキスタンではないのか。
たとえばの話、ロシアの本屋で『世界で愛されるロシア、世界で嫌われるウクライナジョージア』なんて本が山積みだったり、英国の本屋で『世界で愛されるイギリス、世界で嫌われるアイルランド』なんて本が山積みだったらドン引きだ。今の日本の中国(と韓国)への対応はそれと同様ではないか。
もう一度断って置くが、わたし個人中国(あと韓国も)が大好きなわけでも何でもない。そりゃ嫌いなものが愚かでくだらない物ならそっちの方が嬉しい。しかし、世界の自分以外の人間もみんな同じ価値観になってくれるとは限らないのだ。