電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

ナチズムだけはなぜ悪いのか?

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http://b.hatena.ne.jp/entry/s/togetter.com/li/1169750

昨年には「欅坂46のナチス風衣装で炎上事件」が起きたが、この手の「ナチス讃美orナチスコスプレで炎上」案件は、21世紀になってもまったく尽きない。きっと今後も例年出てくるだろう。
そこでそもそも根本的な問題である。なぜ「ナチスだけは絶対に悪い」となってるのか?
まず世界的な前提を述べると、戦後の公式歴史観は「第二次世界大戦当時の連合国が正義」である、国際連合というのは旧連合国のことだ。当事者のドイツ人も、戦後、ナチス党幹部に責任を押しつけて「ドイツ国防軍」の名誉を守る方向でプライドを維持した。
ところが、そうすると定期的に逆張りを気取りたがるナチス擁護者や考え無しのナチスコスプレが出てくる。人間は「悪」とされる物には却って惹かれるものだ。
ミもフタもない話、欧米でナチスがタブーなのは、ナチズムが「魅力的」とみんな暗に認めているからだろう。一度うっかり「ナチスかっこいいじゃん、いいじゃん」となると、皆が皆、本当にあれをやり始めるからヤバいと恐れているとしか思えない。
考えてみればふしぎな話であるが、欧米でもイタリアファシスト党を誉めたたえて叩かれたという例は聞かない。ムッソリーニの後継者たちは今も平然と政界で活動している。
ソ連共産党中国共産党も大量虐殺をやっているが、殺戮の対象は基本的に自国民で、あれは「内政の失敗」だったという言い訳ができないこともない。
(日本の場合はフィリピン占領時の「バターン死の行進」の話がいい例だが、計画的な虐殺なんてものではなく、単に軍の上層部がズサンだっただけのような気がする。自軍兵士にも「補給ナシでも気合いと根性で行け」だったのを、占領地域や敵国民にも適用した結果、相手の立場では虐殺となった)
だが、ナチスは内政の失敗ではなく、明らかに意図的・計画的な民族絶滅政策だった。
一般的な戦争の目的は国土の占領と人民の「支配」だが、わざわざ敵対的な一民族を根絶やし皆殺しというのは、近代に戦争でもみんな国際法を守るようになって以降、戦争の手段としては外道のやることということになった。
日本の場合、日本人のほとんどは日本列島にしか住んでないし、しかも1億人もいるから意図的な民族絶滅の恐怖なんてのは実感がない。
ところが、ヨーロッパじゃ人口が数十万人程度の国なんていくらでもある、特定の民族皆殺しとか「やろうと思えばできる」わけだ。だからこそ、お互いそれを怖がって「それだけはやらない」が近代以降は暗黙のルールだった。しかしナチスはそれを破った。
もし、うっかり「ナチズム、アリだよね」と認めてしまうと、
ドイツ人がユダヤ人を皆殺しにするのがオッケーなのと同よーに
中国人がチベット人を皆殺しにするのもオッケー
英国人がアイルランド人を皆殺しにするのもオッケー
ロシア人がウクライナ人を皆殺しにするのもオッケー
アメリカ人が日系移民を皆殺しにするのもオッケー
(以下、あらゆる民族に当てはめ可能)ということになってしまう。
今のイスラエル政府もパレスチナ人の土地を奪っているけど、さすがに意図的な強制収容所ガス室)送りはやらない。中共チベットウイグル相手にそれは大っぴらにはやらない(ウイグルに核実験場を作るなど、長期的な絶滅には追い込んでいるが)。
しかしそれゆえにこそ、ナチズムは「気に入らない奴は大虐殺とかやりたい放題うらやましい格好いい」という感情をくすぐるんだろうけどな。