電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

モラルハザードの構造想像図

以下はまた勝手な想像である。だが、それなり現実性は高い想像だと思っている。
W社(仮名)の社長ほか経営陣は、次の幹部候補であるところの部長だか課長だかの中間管理職から、かくかくしかじかで年商が70億円台になった、と報告を受けた。
いかにして年商70億円台になったかの詳細は聞いてない(というか経営陣は忙しい、いちいちそんなもん聞いてる余裕はない)、でもって景気良く、その部長だか課長だかに「よっしゃ、じゃ年商100億円を目指せ」と激励する。
激励された部長だか課長だかの中間管理職は「社長に誉められた、わーい」と喜び、それが自分の地位向上にもなるからと、現場下っ端の部下を「年商100億円が目標だ、みんな頑張れ」と叱咤する。
年商100億円を実現するためのノルマを発表するかも知れない。
ノルマといっても「個人営業達成目標」というだけで強制とは限らない。
でも、「個人営業達成目標」を果たせば誉められ、足りなければ、あからさまに怒鳴られたり殴られることはないけれど、気まずくていたたまれない気分にさせられるものかも知れない。
現場下っ端は、部長の顔を潰しては悪い、というか部長にどやされては怖い、それに自分の面目もある、というわけで、時として、詐欺すれすれ、暴力的強要すれすれ、営業対象の客を密室に閉じ込めての洗脳的勧誘などの手法を用いる。
中には営業手段に疑問を抱くような倫理観の持ち主も出るかも知れない。だが、上司に言って解決する問題ではない。なぜって「みんな」「社のために」(なぜか「俺の(給料の)ために」とは絶対言わない!)やってることだからだ。
そう、部長が、社長が、個人で命令してることじゃない。
それに、詐欺すれすれ、暴力的強要すれすれ、営業対象の客を密室に閉じ込めての洗脳的勧誘などを行う人間も、個人として一対一で付き合う分には、決して悪い人ではないのだ、多分。
かくして、社の営業方針に疑問を抱くような倫理観の持ち主がそれを口に出しても、どうすることもできず、結局そいつの方が辞めることになる。
そして、上には結果の営業成績(売上)だけしか報告されない。社長は喜んで「この調子で営業成績を伸ばせ」と言うだけで、いかにして営業成績が伸びているかなど、知ろうともしない……
――以上は憶測である、あくまで憶測である。
が、満洲の荒野に日本軍の血涙が何万と無駄に消耗され、のちには現地住民に偽装した便衣兵との混戦で泥沼の死者数を出すような戦争に至り、それから50〜60年後も、証券会社や金融機関が経営者さえ把握せぬうちに破綻し、大惨事を起こすような危険放置の鉄道会社が堂々と営業される背景には、かような構造があるのではないか? などと、一介の無学な下っ端なりにも偉そうに考えてみるのである。