電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

ヒロイズムの否定しかできない左派の愚

このブログでは毎度のように周回遅れで後出しネタだが、今さらこの辺の話について。
https://twitter.com/kabutoyama_taro/status/770565856199790592
シン・ゴジラ』に限らず、ここ数年というもの、自衛隊ともコラボした『ガールズ&パンツァー』だの『ゲート』だの、日本のアニメやらゲームではウヨにウケるミリタリ系エンターテインメント作品のヒット作が続出し、共産党やら社民党やら民進党の関係者だの左翼リベラル派がそれに噛みつき、「ブサヨはエンタメ言論弾圧者」というレッテルを貼られるというダメなループがくり返されている。
そういや、少し前には、産経新聞社の月刊『正論』8月号で、桜井浩子ウルトラマンについて語ったりしてた。
おいこら、俺はもうすでに10年近く前から言ってるぞ日本左翼は今、「面白いもの」「カッコよいもの」「夢」を保守陣営に取られてる事実を率直に考え直して頂きたいってな!!
なぜ、ヒロイズムに立脚したエンターテインメントと右派は相性がいいのに、左翼はそれを否定する側になってしまったのか? たぶん、そのヒントはこの辺↓にある。

なぜ、サヨク・リベラルは人気がないのか…社会心理学で原因が判明!?
http://lite-ra.com/2014/11/post-616.html
・サヨが重視する価値観
〈ケア/危害〉……苦痛を感じている者を保護し、残虐行為を非難すべし。
〈公正/欺瞞〉……ふさわしい人々と協力し、抜け駆けする輩を警戒せよ。
〈自由/抑圧〉……信頼できないリーダーによる不当な制限を退けよ。
・ウヨが重視する価値観
〈忠誠/背信〉……チームプレーヤーには報酬を、裏切り者には制裁を。
〈権威/転覆〉……安定のために有益な階層関係を形成し維持せよ。
〈神聖/堕落〉……聖なるものを尊び、汚らわしいものを卑しめ。

この分類に立つと、左翼リベラル派の価値観では、歴史物で人気のある主君に忠義を尽くす武将とか、組織や集団の強い団結や戦友愛、崇高な理想への自己犠牲などを美化する作品だのは、みんなNGということになってしまう。
しかしである、逆にいえば、左翼リベラル派の価値観に即したエンタメだっていくらでも成立し得るのだ。横暴な権威への反抗、悪い為政者に対する弱者の正義、弱い人間を保護し広範な立場の人々と絆を結ぶ……などといったモチーフの作品だ。

あの世界的ヒット作のファンは反差別リベラル派?

実際問題、過去には広義の左翼リベラル派に人気のあったエンタメ作品は多数存在する。白土三平の『カムイ伝』は、領主の悪政に立ち向かう農民&被差別階級の決起を描いて左翼学生に支持されたし、赤軍派よど号ハイジャック事件グループは「我々は『あしだのジョー』だ」と言った。むしろ、1970年代当時まで、漫画やアニメのヒーローは、権力に与しないアウトローであることの方が多数派だった。
主人公が国家権力側の人間である刑事ドラマだって、『太陽にほえろ!』など、人気があったのは大抵、組織に忠実な優等生ではなくはみ出し者タイプのアウトローなキャラである。この図式は『機動警察パトレイバー』『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』『PSYCHO-PASS』にまで一貫している、それどころか、この3作品とも主人公はぜんぜん国家権力に忠実とは言いがたい反逆警官ではないか。
はたまた、現代でも『亜人』『東京喰種』『寄生獣』『仮面ライダーアマゾンズ』など、主人公を世間一般の多数派から迫害される少数者の人外の怪物(端的に言ってしまえば被差別マイノリティ)の側に置いた作品が多数存在し、一定の人気を得ている。本当に社会が右傾化しているならこれらの作品がヒットするわけがない、主人公は普通の人間で、それが人類に害を為す異物を排除するのが一切正しい行為、という作品がばんばん作られてヒットしていなければおかしいはずだ。
Newsweek』の2015年9月6日号に、興味深い記事があった。「ハリポタがトランプ旋風を止める?」というもので、アメリカで『ハリー・ポッター』シリーズのファンに対して行われた調査によると、同シリーズの愛読者ほど、同性愛者やイスラム教徒への寛容度が高く、ドナルド・トランプは、同シリーズの悪役で魔法使い以外の人間にきわめて差別的なヴォルデモート卿になぞらえられるという。
どうよ?
このように、「差別的なエリート主義者を嫌な悪者として描くエンタメ」や「悪い権威への反抗をヒロイックに描くエンタメ」や「マイノリティ目線に立ったエンタメ」はいくらでもあるのに、楽しくそれらを語ることができないのが、今の左翼の本当に救いがたくダメなところだ。
なお、エンタメを禁圧するのは左翼だけとは限らない。戦時中にも娯楽作品は検閲されまくり、傷痍軍人を描いた江戸川乱歩の『芋虫』は発禁にされ、映画『無法松の一生』は主人公が戦争未亡人に恋心を抱くという内容ゆえ改変を余儀なくされた。