電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

今月のBtoB仕事(?)その1――かわかずお『パチ漫』裏話

というわけで、月刊『サイゾー』7月号に、「漫画業界騒然!?『パチ漫』が示す著作権とオリジナリティの本質論」って記事を執筆させて頂きました。
誰もが知る名作漫画の数々を、その筆致まで巧みにパチりまくった、かわかずお『パチ漫』(isbn:4862480276)は、先頃「見えない道場本舗」のgryphon氏も紹介していた通り、
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20060512#p2
その内容から、単行本化が危惧されていた問題作なわけだが、今回はその背景を取材。
とりあえず、本記事企画発案者のイラストレーター上杉久代氏、「これって著作権法的にどーなんすか?」という下世話でミもフタもない取材に快く応じてくださったかわかずお氏、漫画業界の著作権とオリオジナリティについてに歯に衣せぬコメントをくださった竹熊健太郎氏、版元を代表して、他の出版社が刊行を躊躇してたこの『パチ漫』をリスクを覚悟して刊行したからには何があろうと作者かわ先生は守るつもりだとの意気込みを語って頂いた洋泉社田野辺尚人氏(前『映画秘宝』の編集長ですね)にはご協力多謝。
字数の関係で削ったが、興味深かったのは、この『パチ漫』と並べて名前を挙げられる事が多い、田中圭一神罰』の話。今さらながら、田中の『神罰』は、実は、手塚のペンタッチ、描き文字、台詞回しなどを実に巧みに再現しているだけで、たとえばアトムなりブラックジャックなり、手塚のキャラ自体の借用はまったくない。これは法的にはまったく問題ないのだという。古典的な例でいえば斎藤緑雨文体模写芸のようなものだろう。
この点『パチ漫』は、まんま「どっかで見たよーなキャラ」を描いてる点が著作権グレー視されるようだが、ただし偽モノ商品(海賊版)を意図しているわけではなく、自ら「パチモノ」と名乗っている。それこそ音楽の世界ではサンプリングだのリミックスだのは日常茶飯事(一例あげれば、奥田民夫がパフィーに歌わせた「これが私の生きる道」なんてビートルズが元ネタの「どっかで聴いたよーな」フレーズ乱発である)ながら、「リスペクト」と言っときゃOK、パチられる方もむしろ名誉、という気風さえある。これからは漫画業界もそーいうのがアリになるのでしょうか? と能天気なノリで取材を始めたが、どうもそうは行きそうにない、というのが洋泉社田野辺氏と、竹熊氏の見解であった――なぜかというと……それはまあ、記事本文の方をお読みください。
そんなわけで、今回は、BtoBというか、出版業界内部関係者への取材みたいな仕事でしたが、たまたま同時進行でやってた宝島社での別件の仕事(これは7月上旬発売予定)も出版業界内部関係者への取材ばっかりで、奇妙な偶然というかなんというか……まあ、併せていい体験になりました。